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58 任務

7月15日午前1時15分、後半部分に次話前半部分を追加。

 シグルトは、眼下にある、小さな家々が寄り添うように連なる集落を、山の中腹から見下ろしていた。白い雪の中、埋もれてしまいそうな小さな村。


 この任務がなければ、こんな王都から遠く離れた寒冷地の、寂れた村を訪れることなどなかっただろう。

 ――あそこに、アーシェがいる。


「シグルト様、国王軍の方は準備が出来たとのことです。ご命令を」


 後ろに控えていた、法院から連れてきた部下の一人、黒いローブを着た上級魔道士が促してくる。


 いよいよだ。失敗は許されない。

 シグルトは、一度ゆっくりと深呼吸をした。冷たい空気が肺に入り、頭を冴えさせる。続いて白い息に乗せて、淡々と指示を吐き出す。


「……私が合図したら作戦開始。村に一斉に火を。敵方の魔道士が反撃に出てくるようでしたら、君たちで対処してください。……私は、目標の処分に向かいますので」


「はっ」


 部下が頷いたのを確認し、シグルトはゆっくりと眼下の村へ手のひらを向ける。

 魔法とは縁もなさそうな小村であるのに、村全体が強力な結界で覆われていた。おそらく、自分の居場所を悟られないため、そして世話になっている村を守るために弟子が張った、魔法と魔物除けの結界だ。 


 それを魔力で力任せに叩き壊す。

 これで弟子は気づいたはずだ。自分がこの場に来たことに。


(どこだ? どこにいる?)


 あの子なら、自分が来たと知れば、自ら居場所を明かすはずだ。

 案の定、村から少し外れた場所から、弟子の魔力の発生を感じた。村には行くな、ここに来い、ということだろう。


 一歩踏み出し、目の前に現れた空間の歪みの中へ足を踏み入れる。わずかの時間だけ、一面様々な色が混じり合う、奇妙な空間の中を進み、すぐに再び白一色の景色の中へと戻る。


 そこにぽつんと立つ、黒いローブ姿の少女の後ろ姿。彼女の灰色の髪は記憶にあるよりも少し伸び、肩の下あたりで揺れている。

 極彩色の空間を抜けた後では、その白と黒と灰色の光景がひどく物寂しく思えた。


「アーシェ」


 呼びかけると、少女が振り返った。半年ぶりの再会。彼女は最後に会った時より少し、痩せたように見えた。


「先生……」


 アーシェは、ぎこちなく口角を少し上げた。


「何しに来たんですか?」


「……わかっているでしょう?」


 明らかに無理をして笑みを作る弟子に、シグルトは無表情で問い返した。法院の魔道士として長く籍を置いた彼女は、当然わかっている。師に法院からどんな命が下され、なぜここにいるのか。


「はは、師弟対決かぁ」


 アーシェは乾いた笑いを漏らすと、左手の人差し指でぽりぽりと頬をいた。その手には最後に別れた時と変わらず、未だに白い包帯が巻かれたままだった。


「いつかは先生を倒してやるんだ、超えてやるんだって思ってましたけど……私、魔道士は辞めましたし、もう先生と戦う気はないんですよね。帰ってもらえません?」


「……」


 この緊迫した空気を少しでも和らげようとしているのか、ふざけた調子で言う弟子に、シグルトはにこりともしなかった。


「君には失望しました」


 師の冷たい声に、アーシェの肩がびくりと震える。


「君にオルアン導師の後継を押し付けられると思って、面倒でも育ててきたのに……全部無駄でした。今まで君に割いてきた時間を返して欲しいくらいですよ。しかも、身勝手に弟子を辞めたと思ったら、去り際にあんな問題を起こして……私も忙しいのに、こんなところまで来る羽目になって、いい迷惑です。本当に、君なんか弟子にすべきじゃなかった」


 弟子を突き放す台詞は案外すらすらと出てきた。優しい言葉はいつも思い付かないのに。やはり自分は冷たい人間なのだろうと自覚する。

 アーシェは先ほど頬を掻いた手を力なく下ろすと、自身の黒いローブをぎゅっと握り締めた。


「……先生には悪いと思っています……」


「悪いと思っているなら、法院に戻ってルゼル導師に謝ったらどうですか?」


 師の責め口調での提案に、アーシェは首を横に振る。


「あのルゼルが謝ったくらいで許してくれると思います?」


「……多少痛い目はみるでしょうが、誠心誠意謝れば、オルアン導師も口添えしてくださるでしょうし、さすがに命までは取られないでしょう」


「ルゼルに誠心誠意、ね……あの人に頭下げるくらいなら、先生に殺された方がましかも」


 弟子は不敵に笑い、きっぱりと言い切った。


「私、ご迷惑をかけた先生には悪いと思ってますけど‥‥‥ルゼルに謝る気は毛頭ありませんよ。私は自分が正しいと思った行動をしただけですから。後悔もしてません」


「……君らしいな」


 思わず笑みが零れそうになるのを必死でこらえる。自分の命が危ういこの状況でも、折れずに自分を貫く彼女がまぶししく見えた。


 だが、これでもう僅かに可能性のあった、彼女を法院に連れ戻すための選択肢は完全に消えた。


 シグルトは、黙って片手を高く掲げた。その掌からぱっと赤い光の球が生まれ、空へ向かって飛び出すと、遥か上空で花火のように弾けて消える。

 それが合図だった。


 村を見下ろす山の中腹あたりで、一斉に複数の魔力が発生したのを感じ、アーシェはそちらを振り仰いだ。

 空に魔力によって作られた、数多あまたの炎の矢が出現していた。空を不吉に紅く染め、それらは雨のように村へと降り注ぐ。


「な……! 村を!?」


 アーシェは目を見開き、すぐにこの状況を作り出したであろう師に迫る。

 

「どういうつもりですか!?」


「反逆者たちの潜伏するカロンを燃やし、彼らを皆殺しにしろ。それが国王の命であり、今回の私の任務です」


 憤る弟子に、シグルトは淡々と答えた。


「そんな! 村人のほとんどは反乱軍とは無関係なんですよ!?」


 弟子の言葉から、彼女が既に村にいる反乱軍の残党と接触していることがうかがえた。彼女程の魔道士なら、瓦解寸前の反乱軍にとって形勢逆転を狙える程の戦力になる。おそらく仲間になるよう誘われでもしたのだろう。


「先生、お願いです! やめさせて下さい!」


「私に陛下の命に背けと?」


「……そうでした。先生って命令通りのことしかできない人でしたね」


 弟子の悲痛な叫びにも、眉一つ動かさない師を睨みつけると、アーシェは村の方へ向かって走り出した。だが、その行く手を阻むように、魔力の火花が彼女の足元で散る。

 アーシェは険しい顔で師を振り返った。


「……先生」


「……今回、法院からの任務がもうひとつ。君もわかっていると思いますが……法院の秩序を乱したアーシェ。君を殺すこと」


 シグルトはまっすぐにアーシェの目を見据えて、冷酷に言い放った。


「村を助けたいなら、私を殺してからいきなさい」


「そんな……」


 弟子の灰色の瞳に、動揺が走った。

 シグルトが法院の命で自分を殺しにくることは予想していたはずだ。おそらく彼女はたとえ師と対峙することになっても、戦わず逃げるつもりでいたのだろう。だが、今シグルトと戦わずに一人逃げれば、村を見捨てることになる。優しい彼女にそんなことはできない。逃げ道を塞がれてしまったのだ。


 シグルトは手を横なぎに一閃させ、弟子に向けて魔力の刃を放った。一瞬呆けていたアーシェは慌てて魔法で障壁を作って防ぐ。


「どうしました? 早く私を倒して助けに行かないと、罪のない村人が大勢死にますよ?」


 弟子の迷いを断ち切らせるべく、シグルトは声高に挑発する。

 アーシェは唇を噛みしめ、村の方をちらりと見やった。すでに村の家々は炎に包まれ、黒い煙をもくもくとはきだしている。国王軍の兵たちも村に入ったのか、家々が焼けて木がはぜる音に人々の悲鳴が混じり出す。


 村を救うには、師と戦うしかない。

 追い詰められた弟子は、ため息一つ吐き出すと、恨めし気に師を睨んだ。


「先生ってほんと、ひどい……こんなの悪魔か鬼畜の所業ですよ。なんで私、先生の弟子になりたいなんて思っちゃったんだろ?」


「私を師に選んだのは、君の人生最大の間違いでしたね」


 アーシェはシグルトに向き合うと、ゆっくりと両足を肩幅に開き、術を使う構えを取った。

 ――そうだ、それでいい。

 戦う意思を見せた弟子を見て、シグルトは望み通りの展開になったことに安堵する。


「本気でかかってきなさい」


 言うと同時に、再び弟子に向けて力を放つ。アーシェはそれを防ぐと、今度は反撃に打って出た。


 そこからは、激しい魔法での交戦となった。互いに向けて魔法を放ち、防ぎ、あるいは避けて、間髪入れずに次の術を繰り出す。


 赤、黄、緑、青――様々な色に変化する魔力と魔力がぶつかり合い、時に火花が散り、時に爆発が起こる。師弟の戦いは、白一色の物寂しかった景色をキャンパスに、鮮やかな色彩と陰影を次々に生み出していく。


 シグルトはアーシェの攻撃を防ぎながら、内心舌を巻いていた。


 彼女の実力はわかっているつもりだったが、まさかここまでとは思っていなかった。一度、彼女が空間の歪みを利用して、背後から不意打ちで魔法攻撃を仕掛けて来た時は、心底感心してしまった。短距離であろうと、空間の歪みを通るのはかなり魔力も体力も消費する。空間移動をした後は疲労で集中力を欠くので、直後に魔法を使うのは相当難しいが、彼女はそれをやってのけた。


 余計な会話をするつもりはなかったが、つい感嘆が口をついて出てしまう。


「随分力を付けましたね、アーシェ。正直、私相手にここまでやれるなんて、予想以上です」


「おかげさまで」


「あと十年したら、君は本当に私を超えるかもしれないな」


「最高の誉め言葉です。先生」


 アーシェは本当に嬉しかったのか、得意げににまっと笑って見せた。シグルトもつられて口元を緩める。


 もしもこれが、単なる修行としての、師弟の手合わせだったなら。

 ただただ弟子の成長を喜び、この一時は最高に楽しいものになっていただろう。


 だが、現実は違う。これは、望まぬものとはいえ、殺し合いなのだ。


 弟子は笑って答えていたが、その息は既に荒くなっていた。先ほどから額に油汗が浮き、肩が上下に揺れている。

 手加減しているとはいえ、シグルトの攻撃を防ぎ続けたのだ。並みの魔道士ならとっくに倒れているだろう。

 魔力も、体力も、かなり消耗している。


(そろそろか……)


 決着を付けなくてはならない。彼女が逃げ切れるだけの余力が残っているうちに。


「十年後はわからない――ですが、今の君では私には勝てない」

 

 シグルトは一瞬緩んだ口元を引き締めると、ゆっくりと手をかざす。

 そこから放たれた黒い光が、稲妻のように真っすぐに弟子へ襲い掛かった。

 

 この攻撃を避けたら、彼女は反撃してくるだろう。

 それを――防がずに、受ける。できれば、心臓に。即死を狙って。


(苦しむのは嫌ですからね)


 臆病な自分に自嘲する。


 シグルトは死ぬ気だった。

 アーシェを手にかけることなど、自分にはできない。

 かと言って、法院に逆らって彼女を守ることもできない。

 未来のない、自分には。


 だから、これが最善の策なのだ。

 アーシェに自分を殺させる。


 不本意ながら、今や最強の魔道士とも評される自分が返り討ちにあったとなれば、法院も彼女を追うことに慎重になるだろう。執念深いルゼルは諦めないだろうが、少なくとも他の導師たちは、これ以上彼女を追うことに積極的に賛成はしないはずだ。


 そもそも、アーシェの罪など、ルゼルの面子を潰したにすぎない。導師に逆らう、という掟破りをしたから追手が出されているだけで、ルゼル一人の面子のために犠牲を増やすことは誰も望まないだろう。


 彼女が反乱軍に加入しているとしたら、国王の命でまた追手がかかることになるかもしれないが、彼女は彼らとは無関係のはずだ。彼女が反乱軍の潜伏するカロンの村にいたのはおそらく偶然だろう。


 アーシェは誰かを傷つけることを望まない。たとえ相手が人々を苦しめる戦争好きの国王であっても。


 問題はアーシェに自分を殺させる方法だった。ただ戦いを仕掛けるだけでは、アーシェは絶対に自分に攻撃してこない。


 だから、彼女がいるカロンの村を焼き払え、という国王の命令はシグルトにとっては都合がよかった。


 村を救いたければ、自分と戦え。そう彼女に迫る状況を作り出すことができるから。


 そのために、彼女がこの半年間、世話になったのであろう村に火をかけた。さらに、彼女に師を手にかけさせようとしている。


 すべて彼女を救いたい、というシグルト自身の身勝手のためだ。


(本当に君は師匠選びを間違えましたよ)


 魔道の才はあっても、人を見る目がなかった弟子を哀れに思う。


 村はもう火の海だ。きっとほとんどの村人は助からない。

 自分を殺した後、彼女は村を救えなかったこと、師の命を奪ったことで苦しむだろう。

 こんな方法でしか、彼女を自由にしてやれない。

 本当にどうしようもない師匠だ。


 それでも。

 これが今、シグルトが弟子にしてやれる、精一杯だった。


 彼女は苦しむかもしれない。だが、きっとそれを乗り越える。

 自分が死んだ後、他の国へでも逃れて、自由に生きて欲しい。

 そして、いつか自分のことなど忘れて、幸せになってくれれば。

 

 そのためなら、こんな呪われた命などどうでもよかった。

 かつてあれほど恐れた死、この世から消え失せる恐怖を、シグルトは不思議と静かな気持ちで受け入れていた。


 そう思える程に、自分はこの生意気で、身勝手で、小憎らしい弟子のことを―――

 

 放った黒い光は、もうすぐ弟子の元へ届く。

 彼女があれを避けるか、防ぐかして、反撃に出たら――

 そこでこの師弟対決は決着だ。

 師の敗北をもって。


 シグルトは真っすぐにアーシェを見つめた。

 最後に、弟子の姿を目に焼き付けておきたかった。

 

 黒い稲妻が、弟子の目前に迫る。

 灰色の瞳が、驚いたように大きく見開かれた。


 次の瞬間――


 暗黒の一筋が、彼女の胸を刺し貫く。

 真っ赤な血しぶきが、色鮮やかに舞った。


 落ちてきた血の雫を吸って、雪が赤く染まる。

 とさっと、雪のせいか存外に軽い音を立てて、弟子の体は後ろに倒れた。

 倒れる瞬間、彼女の唇が動き、何か言葉を発していたようだったが、聞き取れなかった。


 目の前で起こったことが信じられず、シグルトはただ呆然としていた。


(な……んで……?)


 本気の攻撃ではなかった。

 防げたはずだ。

 避けられたはずだ。

 なぜ、そうしなかった?

 一体、何が起こった?


 混乱した頭で、訳も分からず、無意識に弟子の方へ向かって歩みだす。

 だが、思考も歩みも、突然乱入してきた叫びによって中断される。


「うああああああああーーーー!」


 横手から、短剣を握り締め、こちらへ突っ込んでくる少年の姿があった。怒りで顔を歪め、明確な殺意をたぎらせ剣を振りかぶってくる。


 シグルトが反射的に手を横なぎにし、力を放つと、少年はあっさりと吹き飛ばされた。地面に叩きつけられ、ごろごろと雪の上を幾度か転がった後、やがて倒れたまま動かなくなる。


(黒い、髪――)


 おそらく、この少年がアーシェがルゼルから助けたという子供なのだろう。


 倒れた少年の近くに、こちらも長い黒髪の幼い少女が雪の上で横たわっている。眠っているのか、既に息絶えているのか、まったく動かない。


 生死を確認しようとしたのか。自分でも分からないが、少年の方へ一歩を踏み出そうとしたところで、か細い声がした。


「せん……せい……」


 はっと我に返り、弟子の元へ足早に行くと、傍に屈み込む。


 倒れた弟子を見下ろし、シグルトは息を呑んだ。シグルトが放った力は彼女の胸の真ん中を貫いていた。黒いローブが赤黒く、大量の血で濡れている。血で赤く染まった雪の中、ローブが黒い花のように不吉に広がっていた。


 自分を見上げる弟子の息は、ひどく弱弱しい。


「なぜ、防がなかったんです? どうして、君は……」


 問いかけ、すぐにそんな場合ではないと気づく。


「せん……せい……」


「黙って。今、治癒しますから」


 瀕死の重傷。即死でなかったのが奇跡だ。だが、自分なら治せる。治してみせる。

 だが、弟子は黙ってはくれなかった。

 

「あの子たちに……手を……出さないで……身寄り……ない……一緒に、いた、だけ……反乱軍……関係、ない……」


 息も絶え絶えに紡がれる弟子の言葉に、シグルトが感じたのは激しい苛立ちだった。


 自分の問いへの答えでもない。

 死にたくない、助けて欲しいという懇願でもない。


 こんな時でも他人の心配か、少しは自分のことも考えろと、呆れと怒りが湧き上がる。


「喋るなと言っているでしょう!?」


 声を荒げ、怒鳴りつけてから、治癒を開始すべく、弟子の傷口の上に手を掲げる。


「おね……がい……聞いて……」


 その手を、弟子は弱弱しくもしっかり掴んだ。光が失われつつある瞳に、必死で師の姿を捉えながら、声を絞り出す。


「あの……女……の子、病気……でも、先生……なら……きっと治せ……る……」


 どうでもいい。そんなことはどうでもいい。見ず知らずの他人が死のうが生きようが、関係ない。


(私は、君とは違う……)


 弟子に軽蔑されようとも、それがシグルトの本心だった。


「治して……あげて……」


「……今は君を治すのが先です。さあ、手をどけて」


 もう一度怒鳴りつけて黙らせたいのをこらえ、冷静にさとす。


「……いいんで……す……私は……もう……」


 ふと、アーシェが微笑んだ。

 優しく、柔らかく、儚く。

 今にも弟子が消えてしまいそうに思えて、シグルトは自身の手を掴む彼女の手を握り返した。


「大丈夫。必ず助けますから」


「せん……せい……私、ずっと、先生のこと―――」


 アーシェが、握られたのと反対の手――包帯の巻かれた左手を持ち上げ、シグルトに触れようとするかのように伸ばした。


 巻かれた包帯は既に血まみれで、先ほどの戦いで擦り切れ、ぼろぼろになっていた。

 包帯が、するりと解けて、落ちる。

 

 包帯の下、その手にあったものを見た瞬間、シグルトはすべてを悟った。


 なぜ、彼女が突然、自分の元を去ろうとしたのか。

 彼女が一体、何をしたのか。


 襲ってきたのは、激しい後悔と、自責の念。

 今この瞬間まで、何も気づけなかった自分の愚かさを呪う。


「アーシェ、君は、なんて……なんて馬鹿なことを――――」


 死にゆく弟子はただ、愚かな師匠を許すように、微笑んでいた――――




最近無性に、平和にただイチャイチャしてるシーンが書きたい気分なのですが、話は今シリアスなところ……気分切り替えるの大変でしたが、頑張って書きました。

お読みいただきありがとうございました(^^)

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