らじを
--ガガッ ザー
酷く暑い夏の日。
僕は父の田舎で過ごしていた。
祖父の家だ。
今でも現役で動いている古めかしいラジオは僕の隣で雑音を鳴らしていた。
大学の夏休みを利用して避暑のために訪れたはずだったんだけどなぁ。
こうも暑いと避暑どころじゃない。
「こう、ハイカラなもんは壊れやすくていかんな」
「そう、俺が見てみようか」
「おお、頼む」
「じいちゃんはいつも叩いて直したりするからすぐ壊れるんだよ」
「何を言うか。これだってお前が生まれるずっと前に買ったもんだぞ」
「へぇ、いつくらいに買ったの」
「そうだなぁ、お前の父さんが二十歳になったぐらいだったか」
「父さんが今46歳で俺が19だから、大体35年前か。すごいなこのラジオ」
「まぁ嘘だがな」
「だと思った」
一応工学系の大学に通っている僕はすぐに工具を祖父から受け取り分解を始めた。
機械を分解したり、組み上げたりするのはやはり楽しい。
一通り外部のネジを外すと、マイナスドライバーを使ってこじ開ける。
中を見てみるといくつか配線が切れていた。
「じいちゃん、これ叩いて直してたでしょ」
「やっぱりバレるか」
「そりゃあ分かるよ。普通は配線て余程のことがないと切れないもん」
「直りそうか」
「難しいなぁ。半田ごてとかが無いと」
「火箸焼いてくっつけれんか」
「出来無くはないけど」
「おお、ならやってみよう」
「それより、パーツ何個か外して小型化してみたい」
「どうせ壊れてるもんだ、好きにせい」
祖父は煙草を咥えたままニィと笑い、外に出て行った。
僕はタオルで汗を一度拭き、パーツを全部外しにかかる。
小型化するのだからスピーカーは一つでいい。
アンテナは短く切って組み直そう。
他に必要なのはツマミと線と…
ラジオに必要な部品を抜粋し、ニッパーで慎重に切り取っていく。
全てを外し終わり、ふと気づく。
小型化するにも箱がないじゃないか。
すぐに祖父を呼び丁度いい箱がないかを聞く。
「じいちゃーん、何か箱無い」
--お、今行くから少し待っとれー。
「おお、どれくらいの箱だ」
「これが収まりそうなくらい」
「んー、ちょっと待っとれ」
そう言うと祖父はまた外へと向かった。
--ガラガラ
庭から倉庫を開ける音が響いてきた。
--おお、蜘蛛の巣が張っとる。おーい、箒持ってきてくれー。
--はいはい、今持って行きます。
家の奥から祖母の声が響いた。
ぱたぱたと音を立てて祖母が僕の居る居間を通り過ぎ庭に箒を持っていった。
祖母はすぐに手で顔を仰ぎながら戻ってきた。
「本当に暑いねぇ」
「暑いね。今日何度位あるんだろう」
「テレビでは35度を超えるとか言ってたねぇ」
「って言うかテレビ有るならラジオ要らないじゃん」
「ははは、そう言わないでじいちゃんの楽しみを奪わないであげとくれ」
そう言うと祖母は台所に戻っていった。
少ししてからじいちゃんが戻ってきた。
「これならどうだ」
「なにこの箱」
「昔日曜大工で作ったんだ」
「何を入れるために」
「テッシュケースだぞ」
「あぁ、なるほど。それくらいの大きさだね」
その箱を受け取り、すぐにスピーカーを当てて寸法を測る。
鉛筆ですぅっと円を書き祖父にまた渡し円のとおりに穴を開けれるかを聞くと
「これくらい誰でも出来るだろう」と言ってまた庭に出て行った。
その間に僕は5寸釘を取り出し、頭にガーゼを巻いてビニールテープで止める。
祖母に頼み、カセットコンロと水を用意してもらい簡易半田ごての出来上がりだ。
元の配線を思い出しながら、徐々に線を繋いでいるとじいちゃんが庭から戻ってきた。
「ほら、簡単に出来るだろう」
「ガタガタじゃないか」
見れば見るほど不細工な、円とは言えないような歪な円が空いていた。
スピーカーをはめてみると意外とフィットしたのは驚きだ。
そのままスピーカーをビニールテープで簡単に固定し、ネジで止める。
中からスピーカーと今まで繋いできた線を繋ぎ箱の中に機械を固定する。
箱の蓋にツマミを付け、それと機械を繋いだらあとは蓋を閉めるだけだ。
さして時間も掛からずに、ラジオの小型化には成功した。
あとは聞けるかどうか。
--ガガッ ザー
いくらツマミを回してもラジオから人の声は聞こえなかった。
「まぁ、壊れとったんだ。仕方ない」
「さすがに、工学部生としてはプライドが傷つくな」
「ははは、しょうがないしょうがない。そうしょげるな。寿命だったんだ」
「うん、そうだね」
「よし、じゃあちょっと釣りでも行くか。な」
「うん、行ってらっしゃい」
「何を言っとる。お前も行くんだ。そのラジオを持ってな」
「え、でも」
「良いから行くぞ」
僕は少し自信を無くす代わりに、祖父の大きな優しさを貰った。
夏だとどうも夏っぽい作品しか書けませんな…。
もう少し色んな挑戦したい><