選ばれなかった女の居場所【みっふぃ回想】
最初は、ただの憧れだった。
ユキと初めて組んだ日のことは、今でもはっきり覚えている。
戦力も高くて、動きもきれいで、無駄がなくて。チャットは少なめなのに、こちらのミスにはちゃんとフォローを入れてくれる。回復が遅れたときも、「大丈夫だよ、気にしないで」って、当たり前みたいに言ってくれた。
その「当たり前」が、私には特別だった。
今まで、ネットで優しくされるときって、だいたい下心つきだった。褒めてくる人も、相談に乗ってくれる人も、最後は必ず「会いたい」とか「写メ送って」とか言い出す。でもユキは、そういうことを一切言わなかった。
距離を詰めない。踏み込まない。期待させない。
……なのに、優しい。
ずるい。
こんなの、好きになるに決まってるじゃん。
最初は、私だけだと思ってた。
ユキが優しいのは、私にだけだって。
でも、違った。
Laylaにも、シャンプーにも、あの人は同じだった。相談に乗って、話を聞いて、否定しない。誰に対しても平等で、誰にも特別にならない。
それが分かったとき、胸の奥がじわっと冷たくなった。
私だけじゃない。
私は、その他大勢の一人。
それでも、やめられなかった。
ユキがログインすると、すぐ分かる。フレンド欄が光るだけで、心臓が跳ねる。「今日は話せるかな」「パーティ誘ってくれるかな」って、無意識に期待してしまう。
返信が遅いと、不安になる。
他の女と組んでるのを見ると、胸がざわつく。
なのに、私は平気なふりをした。
「ユキはモテるもんね♡」 「みんな好きになっちゃうよね♡」
そう言いながら、心の中では必死だった。
奪われたくない。 でも、奪えない。 選ばれない。
そんな中で、麻婆豆腐が近づいてきた。
「みっふぃちゃんってさ、可愛いよねw」 「俺なら絶対大事にするのにw」
最初は、正直うざかった。
語尾にwwwつけて、調子よくて、軽くて。ユキと比べたら、全部が雑に見えた。
でも。
ユキが他の女と組んでる夜。 個チャが返ってこない夜。 胸が苦しくて眠れない夜。
そんなときに、麻婆豆腐だけは必ず話しかけてきた。
「どうしたの?」 「元気ないじゃんw」 「俺でよければ聞くよ?」
私は、少しずつ、弱音を吐くようになった。
「ユキってさ……優しいけど、遠いよね」 「私、何しても届かない気がする」
すると麻婆豆腐は言った。
「そりゃそうだよw」 「ユキってさ、女慣れしてるしw」 「みっふぃちゃんみたいな子は、俺みたいな男のほうが合うって」
その言葉が、胸に刺さった。
ユキは遠い。 届かない。 私は選ばれない。
じゃあ、近くにいる人を選べばいい。
そうやって、自分を納得させた。
結婚システムの話が出たのは、その少し後だった。
「俺たちさ、結婚しない?w」 「ボーナスもあるしw」
冗談みたいな調子だったけど、私は一瞬で理解した。
これは、逃げ道だ。
ユキを諦めるための、言い訳。
「……いいよ」
そう答えた自分の声は、思ったよりも軽かった。
結婚式は、あっけなかった。
祝福もあった。 冷やかしもあった。
ユキは、「おめでとう」って言ってくれた。
それだけだった。
それだけで、胸が痛んだ。
結婚しても、私は変わらなかった。
麻婆豆腐と組んでいても、視線はユキを追っていた。チャットで名前が流れるたびに、反応してしまう。無意識に、探してしまう。
夜、二人で狩りをしていても、心は別の場所にあった。
麻婆豆腐は気づいていたと思う。
でも、何も言わなかった。
言えなかったんだと思う。
私は、ずっと中途半端だった。
ユキを好きなまま。 別の男と結婚して。 安心しているふりをして。
自分でも、最低だと思ってた。
でも、やめられなかった。
だって。
ユキを諦めたら。 私には、何も残らない気がしたから。
ある日、全チャで誰かが言った。
「ユキって、やっぱ特別だよな」
その一言で、胸が締めつけられた。
やっぱり、特別。 みんなが思ってる。 私も思ってる。
でも、私のものじゃない。
私は、ユキを選べなかった。 ユキにも、選ばれなかった。
だから、私は今もここにいる。
“誰かの妻”という肩書きと、“叶わなかった恋”を抱えたまま。
いちばん欲しかったものを、 いちばん近くで見ながら。
今日も、笑顔で。
「ユキ、お疲れさま♡」
って、言い続けている。
思ったより話数増えたので、何話か追加で入れていきます




