表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/40

狩る女、狙われる男

セーフティゾーンに戻った瞬間、音が戻ってきた。

人の声。

足音。

武器が擦れる音。

笑い声。

ため息。

ダンジョンの奥で感じていた静寂が、一気に押し流される。

ユキは、無意識に肩を落とした。

(……疲れた)

体じゃない。

頭だ。

誰かと一緒にいるだけで、神経がすり減る。

隣には、モユルがいる。

背筋を伸ばし、迷いなく歩く姿。

完璧な装備。

自然と人目を引く存在感。

(……やっぱ、すごいな)

何度見ても、そう思う。

自分とは違う。

最初から“選ばれる側”の人間。

「……今日は、安定してたね」

モユルが言った。

声は静か。

でも、どこか探るような響き。

「はい。モユルさんのおかげです」

ユキは、ほとんど反射で答える。

考えてない。

癖だ。

誰かを立てる。

自分を引く。

それが、一番安全だと知っているから。

モユルは、わずかに眉を寄せた。

(……また、それ)

(どうして、全部私の手柄にするの)

(どうして、自分を見ないの)

「……違う」

思ったより、強い声が出た。

ユキが一瞬、驚いたように目を向ける。

「ユキがいたから」

少しだけ、間を置いて続ける。

「……楽だった」

本音だった。

一位でも。

最強でも。

ユキが後ろにいると、怖くなくなる。

ユキは、きょとんとした顔で。

「……そうですか?」

それだけ。

深く考えていない。

その無自覚さが、胸に刺さる。

(……私だけが、重いんだ)

(私だけが、勝手に)

喉の奥が、少し苦しくなる。

その時。

「ユキくーん♡」

甘ったるい声。

みっふぃだった。

人混みをかき分けるように、一直線に近づいてくる。

(……来た)

モユルは、内心で小さく舌打ちした。

「おつかれさまぁ♡」

距離、ゼロ。

わざとだ。

「……お疲れさまです」

ユキは、いつも通りに応じる。

変わらない。

誰に対しても、同じ。

それが、余計に不安になる。

「今日どこ行ってたのぉ?」

「……ダンジョンです」

「誰とぉ?」

「……モユルさんと」

一瞬。

みっふぃの笑顔が、止まった。

ほんの、コンマ一秒。

でも、確実に。

「へぇ♡」

すぐに、作り直す。

「やっぱ1位さんだねぇ♡」

褒めているようで、距離を測る声。

(……比べてる)

モユルには、はっきり分かった。

「……効率いいから」

淡々と返す。

事実。

でも、それだけじゃない。

(私と行くのが、当たり前でしょ)

そう言いたかった。

言えないけど。

ユキは、二人の空気に気づかない。

少し考えてから、ぽつり。

「……あの」

「次のデイリー、誰か行きます?」

その一言で。

全部、崩れた。

(……私とでしょ)

(……私でしょ)

(……選んでよ)

三人の思考が、重なる。

沈黙。

誰も、すぐに答えない。

ユキは、不安になる。

(……あ、また空気読めてない?)

「……無理なら、一人で……」

慌てて、逃げ道を作る。

それが、さらに火に油。

「……私、行ける」

モユルが言う。

ほぼ反射。

「え、私も♡」

みっふぃも被せる。

譲る気ゼロ。

ユキは、固まる。

(……え、なにこれ)

(なんで急に重い空気)

「……じゃあ……」

困った末に。

「三人で……?」

最悪の答え。

誰も望んでいない。

でも、否定もできない。

モユルの胸が、沈む。

(……嫌だ)

(……私だけがよかった)

みっふぃは、笑ったまま思う。

(……まあ、いいか)

(どうせ最後は私でしょ)

遠くで見ていた麻婆豆腐は、拳を握る。

(……どうせ俺は、選ばれねえ)

ユキだけが知らない。

この場にいる全員が、少しずつ壊れていることを。

「……じゃ、また後で」

そう言って、ユキは離れた。

逃げるように。

残された三人。

モユルは、俯く。

(……私、嫌われたらどうしよう)

(……重いって思われたら)

みっふぃは、軽く笑う。

「モテる男は大変だねぇ♡」

でも、目は冷たい。

麻婆豆腐は、吐き捨てる。

「……クソゲー」

少し離れた場所で。

ユキは、一人で画面を見つめていた。

(……なんで、こんなに疲れるんだろ)

理由も分からないまま。

胸の奥に、重たいものを抱えながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ