私の神様【Layla視点】
この日、Laylaは――
初めて、自分の“神”に出会った。
「……うるさいんだけど」
たった、それだけの言葉だった。
怒鳴りもしない。
感情を荒げもしない。
ただ、氷みたいに冷たい声で。
それだけで。
さっきまで騒いでいた空気が、一瞬で死んだ。
「……え?」
「……ユキ……?」
誰かが呟く。
けれど、ユキは気にもしない。
視線を上げて、淡々と続ける。
「うるさいし、めんどくさいし」 「正直、どうでもいい」
それだけ。
なのに。
もう誰も、逆らえなかった。
――ああ。
Laylaは、その瞬間、確信した。
(……神だ)
この人は。 選ばれた存在だ。
誰にも媚びない。
誰にも縋らない。
誰の期待にも、応えない。
ただ、自分の境界線を、完璧に守っている。
前のユキは、違った。
夜遅くまで、話を聞いてくれた。 泣きながらの相談にも、付き合ってくれた。 「大丈夫だよ」って、何度も言ってくれた。
優しくて。 あったかくて。 今にも壊れそうで。
……危なっかしかった。
でも、今は。
そこに立っているだけで、 空気が浄化される。
(……見てるだけで、救われる)
不思議だった。
話しかけられなくなったのに。 頼れなくなったのに。
心は、満たされていた。
むしろ――前より、ずっと。
「……ユキ……今日も……綺麗……」
小さく呟くと、 隣にいたプレイヤーに怪訝な顔をされた。
でも、関係ない。
これは信仰だ。
だから。
“異分子”が、許せなかった。
まず――ナカジマ。
あの男。
今日も、少し離れた場所で、 無表情でユキを見ている。
話しかけないし、触れようともしない。
ただ、見てる。ずっと。
「……気持ち悪……」
Laylaは、思わず呟いた。
あの視線。
欲情も、独占欲も、ありとあらゆる感情全部を、内側に押し込めて。
表に出さずに、飲み込もうとしてる。
それでも、消えないから。
“見る”ことでしか、生きられなくなっている。
(……最低)
ユキは、神聖なのに。
そんな濁った目で見ないでほしい。
しかも、ユキがあの視線を怖がっているのが分かる。
最近、カーテンを閉めきっている。 光一つ、漏らさないように。
前は、そんなことしなかったのに。
(……あいつのせいだ)
許せない。
そして。
もっと危険なのが――agjtm。
「あー、ユキ。今日さ」
軽い態度で、知らないうちに相手の内側まで侵入しようとしてる。
「別に用ないけどさー」
嘘だ。
用がない人間は、 あんな距離で話さない。
あんな目で見ない。
「……なに」
警戒したユキの声。
でも、agjtmは引かない。
「いや、最近さ」 「雰囲気変わったなーって」
探っている。
確実に。
心の弱さを。どうすれば隙をつけるかって。
(……危険……)
あいつは、“待つタイプ”だ。
すぐに手を出さない。 すぐに縛らない。
その代わり、少しずつ絡め取る。
ゆっくりと、確実に。
(……絶対に、近づけない)
Laylaの胸に、熱が灯る。
それは、使命感だ。
「……私が……守らないと……」
小さく、呟く。
誰にも聞こえない声で。
ユキは、神だ。
壊されていい存在じゃない。 汚されていい存在じゃない。
ナカジマにも。 agjtmにも。
渡さない。
「……ユキは……私たちの神なんだから……」
ぎゅっと、拳を握る。
その瞳は、 もう、迷っていなかった。
神を敬う、信徒の目だった。




