表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/76

誠実な狂気【ナカジマ視点】

ナカジマは、いつもの位置に立っていた。

人が行き交うセーフティゾーン、その端っこ。

壁にもたれて、腕を組んで、風景に溶け込んでる。

一見すれば、ただの待機中のプレイヤーだ。

けれど、その視線だけが、異様だった。

ただ、一点に縫い留められている。


(……また、あいつか)


少し離れた場所。

ユキの前に、agjtmが立っている。

距離はある。歩数にするなら、二歩分くらい。

触れられない位置をしっかり守ってる。笑い合ってもいない。

ユキは腕を組み、わずかに体を引いている。

明らかに警戒している態度。

――なのに。

それでも、話してるという事実がナカジマを苛立たせる。


(……なんでだよ)


胸の奥で、低く声が鳴る。


(なんで、話してんだよ)

(嫌なら、無視すればいいだろ)

(視線も合わせなきゃいいだろ)


ユキは、明らかに面倒くさそうな態度で接してる。

遠目から見ても、それはわかる。


「別に」

「そういうの興味ない」


突き放すような口調で、agjtmから距離を取ってる。

けれど、それは完全な遮断じゃない。


(……会話してる)

(切ってない)

(ちゃんと、繋がってる)


自分勝手な感情だとはわかってる。

でも、胸がざわつく。

ユキは自分のモノじゃないのに、横取りされたような気分になる。


(……俺には、あんな態度なのに)

(俺には、もっと距離取るくせに)

(あいつとは、話すんだ)


agjtmが、少し身を乗り出す。

ユキが、反射的に一歩引く。

ちゃんと距離を取ってる。

なのに、ナカジマの胸は、さっきから刃物で抉られたみたいに苦しい。


(なんで、そんな奴と話すんだよ)

(もう終わらせろよ)


喉が鳴る。

笑いながらagjtmが、ユキに触れようとした。

無意識に、唾を飲み込む。


(…あ…殺したい)


一瞬、純度の高い殺意が浮かんできた。

でも、すぐに叩き落とす。


(ダメだ)

(ユキが嫌がる)

(そんなことしたら、終わる)

(全部、終わる)


理性が、必死に抑え込む。


(……俺は何もしない)

(邪魔しない)

(見てるだけ)

(それだけで、いいんだ)


何度も、心の中で繰り返す。

目を血走らせながら、荒い息を整えながら。


そのとき。ユキが、ちらりとこちらを見てきた。

ほんの一瞬だったが、視線が絡む。

それだけで、ナカジマの心臓が跳ねる。

条件反射みたいに。


ユキはすぐに目を逸らす。

そしてまた何事もない顔で、agjtmと会話を続ける。


(……見たよな)

(俺が見てるの)

(分かってるよな)

(それでいい)

(それで……いいんだ)


胸の奥は、ぐちゃぐちゃなのに。

外側は、ただ静かに見守ってるように見せかけてる。完璧な擬態。


(……今日も、可愛い)


警戒してる顔も、嫌そうな顔も、困ってる顔も。


(全部…全部、可愛い)


喉が詰まる。息が浅くなる。膝が崩れ落ちそうになるのを既のところで耐える。


(……無理だ)

(好きすぎる)

(もう……無理)


agjtmが去っていく。

背中が、人混みに溶けていくのを眺めながら。

ユキは、ほっとしたように、小さく息を吐いた。

ほんのわずかに、肩の力を抜いてる。

その仕草だけで、ナカジマの心が救われる。


(良かった)

(触られてない、距離も超えてない)

(……まだ、大丈夫)


でも、胸の奥で、別の声が囁く。

いつか誰かに触れられるんじゃないか。

agjtmの他にも、欲をもって距離を詰めようとする人間が現れるんじゃないかと。


考えただけで、胸が痛い。抉られてたナイフが更に深くに突き刺してくるみたいに。


それでも、ナカジマは動けない。

ただ、黙って見てるだけ。


(俺は、ずっとそばにいる)

(ずっとユキを見守り続ける)


それが自分の愛し方だと、疑いもしないまま。

今日2話更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ