モユル包囲網
正直に言うと。
最近のこのサーバー、息が詰まる。
前はもっと、適当で、適度に雑で、笑って終われる場所だったはずなのに。
今は違う。
どこを見ても、ユキ。 誰と話しても、ユキ。 誰かが機嫌を損ねれば、原因はだいたいユキ。
そして、その中心にいるのが――関ヶ原モユル。
「アハ、重すぎでしょ、ほんと」
みっふぃは、口元を手で隠しながら小さく呟いた。
誰にも聞こえないように。 聞かれたら、終わるから。
モユルは今や、この鯖の“空気”そのものだった。
ユキの行動を把握し、交友関係を管理し、パーティ構成にまで口を出す。
表向きは「心配してるだけ」。 でも、実態はほぼ監視。
それを、誰も正面から指摘できない。
1位。 廃課金。 影響力。
逆らえば、居場所がなくなる。
(……そろそろ、私まで巻き込まれるのも、時間の問題だよね)
みっふぃは、唇を噛んだ。
自分は、モユルの“側近”ポジションにいる。 ユキとも距離が近い。 だから今は、まだ安全圏。
でも。
このままじゃ、そのうち――潰される。
確信があった。
だから、決めた。
動くなら、今。
みっふぃは、フレンドリストを開く。
最初に選んだのは――恋歌。
戦力4位。 agjtmのネット嫁。 日和見。 空気に敏感。
今の状況に、一番疲れているタイプ。
個人チャットを開く。
数秒、指が止まる。
いきなり本題はダメ。 まずは、“相談”。
それが、みっふぃ流。
「ねえ、恋歌ちゃん……最近さ」
『ん?どしたの?』
「この鯖、ちょっとしんどくない?」
少し間。
『……正直、ちょっとね』
食いついた。
みっふぃは内心で、静かに笑う。
「だよね。なんかさ、全部ユキ中心で回っててさ……」
『わかる……』
「モユルさんも、最近ちょっと……怖くない?」
“怖い”。
この単語が、効く。
しばらく沈黙。
『……うん』
『正直、あの人ピリピリしすぎ』
『何か言うと睨まれるし』
来た。
不満の噴出口。
みっふぃは、ここで一気に踏み込まない。
寄り添う。
「だよね……私も同じこと思ってた」
「このままだとさ、皆しんどくなるよ」
『……だよね』
『もうちょっと楽しくやりたいだけなのに』
十分。
下地はできた。
次は、もう一人。
agjtm。
戦力2位。 出会い厨。 モユル狙い。 ユキ嫌い。
最初から敵。
だから、遠慮はいらない。
みっふぃは、即チャットを飛ばした。
「ねえ、agjtm」
『ん?みっふぃたん♡』
「最近さ、正直どう思う?」
『何が?』
「モユルさんとユキ」
即レス。
『囲いすぎ』
『マジでキモい』
あっさり。
笑う。
分かりやすすぎ。
「だよね」
「このままだと、何もできなくなるよ」
『ほんそれ』
『俺、正直ユキも嫌い』
『調子乗りすぎ』
内心、ガッツポーズ。
完璧。
駒は揃った。
三日後。
三人の個チャが開かれた。
名目は「相談」。
実態は――作戦会議。
みっふぃは、慎重に言葉を選ぶ。
「……さ、正直さ」
「このままだと、皆潰れると思わない?」
恋歌がうなずく。
『最近、ログインしてる時間ずっとしんどい』
agjtmが被せる。
『俺も』
『モユルの顔見るだけで萎える』
みっふぃは、深刻そうに続ける。
「誰かが止めないとさ……」
「この鯖、壊れるよ」
沈黙。
そして――
『……じゃあ、どうするの?』
恋歌が聞いた。
来た。
ここが本番。
みっふぃは、ゆっくり言った。
「……包囲しよう」
二人が息を呑む。
「孤立させるの」
「噂、距離、空気……全部使って」
「気づいたら、一人になるくらいまで」
agjtmが、笑った。
『いいね』
『めっちゃいい』
恋歌は、少し迷ってから。
『……私も、もう疲れた』
成立。
包囲網、発足。
みっふぃは、胸の奥でそっと呟く。
(ごめんね、モユル)
(でも、私、生き残りたいの)
この瞬間。
サーバーの運命は、静かに歪み始めた。




