地獄見学会【アル中視点】
正直に言うと、この世界に来てから俺はずっと胃が痛い。精神的じゃなくて、ほんとに物理的にダイレクトアタックしてくる。きりきりするし重いし、夜になると胸焼けまでしてくる。決して歳のせいではない。
原因は分かっている。
――あいつらだ。
ユキ。モユル。みっふぃ。麻婆豆腐。
この四人が同じ画面内にいるだけで、俺の内臓は確実に悲鳴を上げる。
その日もいつも通りだった。セーフティゾーンの端の簡易ベンチに腰を下ろし、干し肉みたいな携帯食をかじりながら、俺はいつもの光景を遠目に眺めていた。
「ユキ、一緒にデイリー行こ」
モユルだ。別嬪さんなのに、表情はほとんど動かない。だがユキとの距離だけが異常に近い。クマが獲物を土や葉っぱで隠す、あれに近い。
「え、あ、うん……」
ユキは困ったように笑う。あの曖昧な表情。そこがまず地雷だ。
そこへ。
「あっ、ユキ♡」
みっふぃが走ってくる。女であることを最大限武器として扱う女。モユルとは系統は違うが、この子もなかなかの美女。
ここまで見ればユキは両手に花。誰もが羨むなろうのハーレム主人公だ。
「もう! 誘うなら私も混ぜてよぉ♡」
自然な顔で腕に絡む。自然なふりをして、ほんの少しの色気を足す。ほんと見事な手口だ。
俺は無意識に胃薬を探し始める。
さらに。
「お、なにやってんのwww」
真打ち、麻婆豆腐登場。語尾に草を生やすタイプのイキリキッズ。
最悪の追加メンバーだ。
「俺も行くわwww パーティ満員?ww じゃ抜ける?www」
誰も抜けない。誰も拒否しない。ここで地獄完成。
…あー…これは拗れる。確実に。
モユルは管理したがる。それがさも当然だと思っているのが厄介だ。
みっふぃは自分の武器を正しく使って、ユキの隙間を狙ってる。
麻婆豆腐は自分が常に上であることだけを気にしてる。
そしてユキは、全部受け止める。はっきり主張しない。「まあいいか」で流す。
最悪だ。あれで許されるのは、なろうのチート主人公だけだ。
「ねえユキ、昨日の相談なんだけどさ♡」
「あ、うん」
「私さぁ、ほんとユキしか話せる人いなくてぇ」
さりげなく撓垂れるみっふぃ。モユルの目が明らかに冷え込んでる。
「その話、今する?」
低い声。もはや不機嫌を1ミリ隠さない。
「え? だって今会えたし♡」
気づいてないふりをしてるが、あれは分かってやっている。
「ママ活ユキくんは無言すかwww」
火に油を注ぐ天才がここにいる。マジでキッザ〇ア行ってこい。
「小猿が人間語を話せるようになるなんて、随分進化したのね」
空気が凍る。
ユキが慌てる。
「あ、じゃ、あとで聞くよ」
誰も救われない選択。
俺は頭を抱えた。終わった。
少ししてユキがこっちへ来る。
「アル中さん、大丈夫っすか?」
心配そうな顔。
いや、お前が原因だよ。
「まあ……な」
曖昧に笑うしかない。
「…なんか、最近、みんな変ですよね……」
お前のせいだ。
「巻き込まれないようにな」
それだけ言った。
「え?」
分かっていない顔。だから普通にしていられる。
その夜、寝床で天井を見ながら確信した。
これは近いうち修羅場になる。
女の視線。男の嫉妬。無自覚主人公。
役満だ。
酒もないのに二日酔いみたいな気分で目を閉じる。胃が痛い。明日も痛いだろう。
それでも俺は止めない。止める器も勇気もない。
この地獄は、まだ始まったばかりだ。




