嫌な予感しかしない【アル中視点】
正直に言うと。
この世界に来てから、俺はずっと胃が痛い。
比喩じゃない。物理的にだ。
きりきりするし、重いし、夜になると胸焼けまでしてくる。
原因は分かっている。
――あいつらだ。
ユキ。 モユル。 みっふぃ。 麻婆豆腐。
この四人が、同じ画面内にいる時。
俺の内臓は、必ず悲鳴を上げる。
◇
その日も、いつも通りだった。
セーフティゾーンの端。 簡易ベンチ。 俺は腰を下ろして、干し肉みたいな携帯食をかじっていた。
遠くで、例の光景が展開されている。
「ユキ、一緒にデイリー行こ」
モユルだ。 淡々とした声。表情は薄い。 でも距離は異常に近い。
「え、あ、うん……」
ユキは困ったように笑う。 断らない。 断れない。
ここが、まず地雷。
そこへ。
「あっ、ユキ♡」
みっふぃ参上。
走ってくる。 でかい声。 距離感ゼロ。
「もう! 誘うなら私も混ぜてよぉ♡」
腕に絡む。 自然なふりして、密着。
俺はここで、胃薬を探し始める。
さらに。
「お、なにやってんのwww」
麻婆豆腐。
最悪の追加メンバー。
「俺も行くわwww パーティ満員? じゃ抜ける?www」
誰も抜けない。 誰も拒否しない。
地獄完成。
◇
(……あー……これ、ダメなやつだ)
俺は遠くから眺めながら、確信していた。
これは。
揉める。 拗れる。 壊れる。
三拍子そろってる。
モユルは、静かに独占するタイプだ。 表に出さない。 でも逃がさない。
みっふぃは、感情を武器にする。 泣く。 甘える。 被害者ぶる。
麻婆豆腐は、マウント狂。 勝ち負けでしか物を見ない。
で。
ユキは。
全部受け止める。
拒否しない。 線を引かない。 「まあ、いいか」で済ませる。
……最悪の性格だ。
◇
「ねえユキ、昨日の相談なんだけどさ♡」
「……あ、うん」
「私さぁ、ほんとユキしか話せる人いなくてぇ」
みっふぃが寄る。
モユルの目が、わずかに細くなる。
「……その話、今する?」
低い声。
「え? だって今会えたし♡」
みっふぃ、気づいてない。 いや、気づいててやってる。
麻婆豆腐が笑う。
「モユル嫉妬?www」
……こいつは火に油を注ぐ天才だ。
「別に」
モユルは言う。
でも。
空気が凍る。
ユキは慌てる。
「あ、じゃ、あとで聞くよ」
誰も救われない選択。
俺は頭を抱えた。
(ああ……終わった……)
◇
少しして、ユキが俺の方に来た。
「……アル中さん、大丈夫ですか?」
心配そうな顔。
お前が原因だよ。
言えないけど。
「いや……まあ……な」
俺は曖昧に笑う。
「……なんか、最近、みんな変じゃないですか?」
お前のせいだよ(二回目)。
「……まあ……」
どう説明すればいい。
「……巻き込まれないようにな」
それだけ言った。
ユキは首を傾げる。
「え?」
「いや、なんでもない」
理解してない。
してないから、ここにいる。
◇
その夜。
俺は寝床で天井を見ながら思った。
(これ……絶対、近いうち修羅場になる)
確信があった。
女の視線。 男の嫉妬。 無自覚主人公。
役満だ。
俺は酒もないのに、二日酔いみたいな気分で目を閉じた。
胃が痛い。
明日もきっと痛い。
でも。
誰も止めない。
誰も止まらない。
この地獄は、まだ始まったばかりだった。




