素敵な拾い物をしました 3
「迷惑だったか?」
開口一番の言葉がそれ?
「何のことでしょうか」
朝早くの呼び出しのことか、それとも。
「求婚したことだ」
そっちか。というか、父上の隣で答えなくちゃいけないの? ちょっと嫌なのだけど。
「よろしければお二人で庭園でも散歩なさってはいかがでしょうか。今はマグノリアがとても美しいですよ」
父上からの助け舟だ。ありがたく乗らせてもらおう。
「そうですね。王女殿下、私にエスコートさせてくださいますか?」
「……お願いするわ」
ゆっくりと歩きながら王女を見ると、なぜかションボリしている。
「王女殿下はなぜそんなにも落ち込んでいらっしゃるのです?」
「……たった一日で求婚するなど、はしたないと叱られた」
なるほど。叱られて落ち込んでいたのか。
「嫌いになったか?」
……違った。嫌われたと思ったほうか。本当に王女は可愛らしい。
「私は、王女の素直さが好ましいです」
「本当に?」
「はい。私は男女の駆け引きなどは苦手でして。好きなら好き、嫌なら嫌とはっきり伝えてもらえる方が嬉しいですね」
「……私はお前を気に入ってるぞ?」
上目遣いでその台詞か。天然って怖い。
「私も王女が可愛らしいと感じています」
「そうか!」
「はい」
本当に嬉しそうにするんだから。つい、撫でたくなってしまうじゃないか。
「ああ、あちらが先ほど父が言っていたマグノリアですよ。綺麗でしょう?」
「本当だ、とても美しいな」
「私は花壇に咲く花よりも、こうした木々に咲く花の方が好きです。マロニエやジャカランダにミモザ。そんなに詳しくはないですけどね」
「生命力に溢れる感じか?」
どうやら覚えてくれているらしい。
「はい。あなたみたいに」
「……これは口説かれているのか」
「どうでしょうか。自然な感想ですよ」
「…では、これからは私以外には言うな」
「かしこまりました」
「あと」
「あと?」
「……名前で呼ぶことを許す」
真っ赤な顔に横柄な態度。なんと可愛らしい姫君か。
「エデルミラ様、私のこともシリルとお呼びください」
「……シリル」
「はい、エデルミラ様」
それからはしばらく無言で歩いた。
「国に戻ったら父上にお願いする」
「はい。お待ちしております」
「……本当に?」
「はい。拾い物をしたら最後まで面倒を見るように言われておりますから」
「……お前は私を猫扱いか」
「ええ。その美しい瞳に一目惚れしました」
「!」
目が潤んでいて可愛い。撫でくりまわしたい。なんなら猫吸いしたい。
「抱きしめてもいいですか?」
「まだ婚約前だ!」
残念。早くうちの子にならないかな。
それからは順調に話が進み、無事婚約が整った。
3ヶ月後にはエデルミラ様はこちらで暮らすことになった。母上がこの国でのマナーなどを教えていくことになったのだ。
そう。最近の困りごとは一番のライバルが母上なこと。
「シャノン様は本当に素敵だな! 私の母も素晴らしいが、シャノン様は違った魅力があって」
とにかく母上を大絶賛だ。相手の好みを把握し、もてなすことが大の得意な母上だから仕方がない。仕方がないのだけどね?
私はまだ学生だ。要するに母よりも会える時間が短い。それなのに、せっかくの時間も母のことばかりでは、そろそろ限界というものだ。
ひょいっとエデルミラ様を抱き上げ膝の上に乗せる。驚いて固まっているのをいいことに、思いっきり抱きしめた。
「ちょっと⁉」
「あなたは私の婚約者なのですが?」
「……知っているが」
「母上が相手でも嫉妬します。もっと私に構ってください」
チュッ、と頬に口付けた。
「ぴゃっ!」
……可愛い鳴き声が聞えた。
「キスしてもいいですか?」
「もうしたじゃないか!」
「場所が違いますよ」
「まだ結婚前だ!」
残念。我が婚約者殿はとても真面目なようだ。
早く妻にならないかな。卒業してからの予定だから、まだあと1年以上もある。
仕方がないので、もう一度抱きしめて猫吸いをする。
「匂いを嗅ぐな!」
「あと一年半我慢するためなので」
サラサラな黒髪を撫でる。時折、頭や耳、頬に口付けながら。
「ふう。満足した」
「……私は恥ずかしくて死にそうだぞっ」
「すみません。大好き過ぎて我慢できませんでした」
「もう~~~っ!!」
ほっぺたをムニッと左右に引っ張られた。
さすがに痛い。
「ごめんなひゃい」
「何を言っているか分からんな!」
楽しそうに笑っているからまぁいいか。
とうとう殿下とシャーロットが結婚した。
殿下は飛び級しやがった。早く結婚したいがためと言うところが恐ろしい。シャーロットの16歳の誕生日に式を挙げた。一日たりとも待ちたくなかったらしい。
シャーロットの花嫁姿は本当に綺麗だった。
父上達も嬉しそうだ。
「幸せそうだな」
「ああ、本当に」
「……早く、私も着たいな」
「私もあなたの花嫁姿が楽しみだよ。絶対に綺麗だ」
「ふふ、待ち遠しいな」
二人で見つめ合う。
あと少し。それがもどかしくて、でもそのもどかしさも愛おしくて。
そっと手を繋ぐ。
あと少し先の幸せを夢見て。
【end】