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素敵な拾い物をしました 2

 血は争えない。


 拾い物が得意なお義母様の息子のノア、そして孫のシリルは、やはり同じく拾い物が得意だった。

 怪我をした動物や、時には暴力に晒された女性まで。その優しさを私は尊いと思っているし、私自身ノアの優しさに救われた人間だ。


 でもまさか、他国の王女様まで拾ってくるなんて!!


「なぜ一日でプロポーズまでされたのかしら」


 我が息子ながら恐ろしいわ。


「そうだね、血は争えないよね。シリルもロティも王族に目を付けられるなんて」


 そんな目で見ないで。私はお仕えしているだけだもの。目を付けられてはいない。……たぶん。


「明日、フリーダ様に聞いてみるけれど」

「王女様の行動力を見るに、帰城してすぐに陛下にお話をされていそうだね」


 ……そうね。絶対にされてると思う。


「もしかして、王女殿下がいらっしゃったのは婚約者探しのためだったのかしら」

「そうだね。こちらとの繋がりを強められるような相手をお探しだったのだろう。

 本来なら第二王子殿下が身分的には合っているけど、それでは王太子殿下とのパワーバランスが崩れる。陛下が許すことはないだろうね」

「それならば公爵家になるのではなくて?」


 ヘイゼル公爵家のガジェット様はまだ婚約がいない。それはロティへの初恋を拗らせていたせいだけど。


「それなんだけど。どうやらガジェット様がやらかしたようだ」

「え! まさか……」

「王女殿下の肌の色を侮辱したそうだよ。そこでヴァジェイラの使節団も帰国すると言い出して騒ぎになったんだ。ヘイゼル公爵もかなり参っていた。で、何とか場を収めてみたものの、気が付けば王女殿下が行方不明に」

「それをシリルが拾ってしまったと」


 ああ、王女様を拾ってはいけません! と、言ってしまいたい。


「だが、シリルでよかったよ。これで何かに巻き込まれていたら大変なことになっていたから」

「……そうですね。でも……」

「ちょっと婚約は断れないかな?」


 ですよね。ここで婚約が整えばすべて丸く収まるものね?


「私達だけで考えてもどうにもならないよ。明日には呼び出されるだろうし」

「そうね。今日は早く休みましょうか」


 明日のことを考えると気が重い。

 そんな私の不安を感じたのだろう。ノアが優しく抱き寄せ、背中を撫でてくれる。


「大丈夫。あの子は幸せになれるよ」

「……そうね」


 王族だって普通の人間だわ。身分だけで厭うのは、肌の色で差別したおぼっちゃまと変わらない。


「王女殿下は賢くて、とても素直で可愛らしい方でしたわ。シリルも楽しそうでした」

「そうか。いい出会いがあってよかった」

「ええ」


 やっぱりノアは素敵。さっきまでの不安が消えたわ。

 彼の温もりに包まれて、私は優しい眠りに落ちていった。



 次の日。やはり朝早くに王宮に来るようにと使者がやって来た。


「出発前にもう一度だけ確認するわ。シリル、本当にいいのね?」

「はい。もしも本気であれば、ですが」


 そうね。王女様の気まぐれということもあり得る。


「じゃあ、行こうか」

「ええ」「はい」


 さて、どんな話し合いになるかしら。


 王宮に着くと、なぜか私だけが別室に呼ばれた。室内には陛下とフリーダ様のみ。護衛も部屋の外での待機だ。


「朝早くに呼び出してすまない」

「いえ、ですがなぜ私だけなのです?」

「とりあえず時間が惜しい。王女の話をさせてくれ」

「……はい」


 そんなにも重要な話が?


「私達も昨日、この話を聞いてとても驚いたのだが。王女が我が国を嫁ぎ先に選んだ理由にオーガスト・マクニールが関わっている」

「…………え」


 何と懐かしい名前だろう。記憶からすっかりと消え去って久しい。今ではもう、何も感じることのない名前だけど、でもいまさらどうして?


「あなたのドン引きしていた彼に与えた仕事を覚えてる?」

「……ああ、はい……」


 それだけは忘れられないわ。……あれ?


「まさか」

「そうなの。彼は王女の母親の代理役として、長く王家に仕えていたわ」


 え、要するに王女様がお腹にいる時に、そのお仕事を頑張っていたと。確かその下にも王子がいたから……


「意外なことに、アイツはとても真面目に頑張ったらしいよ。もちろん、他の大使としての仕事もね。まあ、最初は終わったあとは部屋からすすり泣きが聞こえていたようだけど。

 だが、第一王子殿下が産まれた頃から変わったらしい。

 それからはヴァジェイラの宗教なども真剣に学び、理解しようと努めいていたそうだ。

 君には言わなかったが、当時は国王陛下からも礼状が届いたくらいだよ」


 耐えられなくて逃走するかと思っていたけど、まさかそんなふうに変わっていただなんて。

 新しい生命の誕生に、彼の考えを改めさせる何かがあったのだろうか。


「……彼は今はどうされているのですか」

「5年前にセーヴァとしての役目を終えて、ヴァジェイラの女性と結婚したよ。

 もともとセーヴァを勤め上げたものにはその後のお相手を用意することが多いらしい。

 …その、もとの生活に戻れないものもいるらしくてね」


 ……それはどちらの意味かしら。精神的になのか肉体的なものなのか。


「でも、お相手の女性は大丈夫なのですか?」

「子供を授かれず離縁された人で、今は養子を迎えているからね。体の関係がないほうがいいのだろう。でも、彼は妻子をとても大切にしているそうだよ」

 

「……よかった……」


 不思議ね。こんなふうに思えるようになるとは思わなかった。本当に終わったことなのだわ。


「……君がそう言えてよかったよ」

「というか、すっかり忘れておりました」

「そうか……君は幸せだものな?」

「はい」


 国王になっても相変わらず甘いおじい様なのだから困ってしまうわね。

 ちなみにゴミく……んん、彼は結婚するときに完全に国籍をヴァジェイラに移したから、こちらに戻ってくることはないようです。


「でも、その彼がどうして?」

「実はね、王女様の初恋なのですって♡」

「えっ!」

「彼って見た目がキラッキラだったじゃない? 浅黒い肌に黒髪のヴァジェイラ人の中で、色白金髪碧眼の王子様ですもの。物語から抜け出してきたみたいに見えて憧れていたそうよ」


 母の代わりに父親と×××な相手に恋……。

 異国文化は謎だらけだわ。


「それでね、彼も優しい人だったから、王女様の話し相手をしてくれていたそうなの。

 それで、この国の言葉や文化なども教えてくれたのですって」

「ああ、道理で。とても流暢に話されていましたわ」

「あとはねぇ。あなたのことも聞いていたそうよ?」


 なんですって? なぜ、他国の王女に私の話を。


「女の子は恋のお話が大好きなのよ。憧れの人の失恋話なんて大好物よね」

「……もしかして、私のせいで興味を?」

「ああ。シリルの名前を聞いた時に、君の息子かもしれないと思ったそうだ。会ってみて、君のことも彼のことも気に入ったらしいよ」


 ごめんなさい、ノア。私も原因の一つでした。


「あの、婚約の話は本当に?」

「王女は本気だな。我々も纏まると大変助かる。まさかガジェットの馬鹿があんなことを言うとはなぁ」

「彼はシャーロットをブスと言いましたが」

「幼少時代から成長していないとは思わなかったんだよ。もう思春期は終わっているだろうに」


 公爵家としては致命的ね。


「でも、これで第二王子殿下の良いお相手が見つかりましたね?」

「君もそう思うか」

「はい。ガジェット様とは違い、妹君はとても聡明ですもの」


 残念ながらガジェット様が公爵家を継ぐことはもう無理だろう。第二王子が臣籍降下して公爵家を継ぐことで、今回の不祥事の穴埋めとするのが無難でしょうね。


「それで、王女との婚約の件だが」

「はい。ヴァジェイラ国から正式な申し入れがございましたら、ありがたく受けさせていただく所存です」


 だってシリル自身が気に入ってしまっているし。

 他国の王家とも関わるとは思いもしなかったけど。

 お父様達の驚く顔が目に浮かぶわ。




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