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溺愛王子

シャノンの子ども達のお話(その1)


第一子 長男シリル 15歳

第二子 長女シャーロット 13歳



「ねえ、シリル兄様」

「なあに、シャーロット」


 兄様は私より2つ年上。優しい緑の瞳が父様にそっくり。髪色はお祖母様に似て淡い金色で、その姿は第一王子と並んでも引けを取らないと思っている。

 性格は至って温和で、やっぱりお父様にそっくりなの。


 私はというと、誰に似たのか分からない銀の髪にお母様似の紫の瞳。もう少し兄様みたいな優しい色合いがよかったわ。


 兄様はジェレマイア第一王子殿下のご学友として5歳の頃から側にいる。おかげでいつまでもお父様達が領地に帰って来られないとおじい様が嘆いていた。


 第一王子殿下はとてもお美しい。王妃様にそっくりなハニーブロンドにシトリンの瞳を持っていて。いつも落ち着いていて、温和な兄様とはまた違った魅力のある方。


「兄様は殿下のことが好き?」

「そうだね。友人だし」

「私が婚約者になったら嬉しい?」

「どうかな。少し寂しいかも」

「そう」

「うん」

「兄様、大好きよ」

「私もロティが大好きだ」


 婚約者って必要かしら。兄様がいれば十分なのに。


「また君達は二人だけで仲良くして。私も混ぜてくれたらいいのに」

「殿下」

「名前で呼んでよ、シャル」


 親しい人は皆ロティと呼ぶのに、殿下だけは私をシャルと呼ぶ。困ってしまうのだけど、いくら言っても止めてくれなくてとうとう諦めた。

 おじい様には諦めるな! と(たしな)められたけど。


「ジェレミー様? 我儘ばかり言っては駄目ですよ?」

「だってシャルが可愛いから」


 ジェレミー様の理屈は時折破綻している。


「それで? 二人で何を内緒話していたの?」


 兄様と目を合わす。


「「秘密です」」


 声を揃えて言うと、殿下がムッとした顔になる。


「……君達は小憎たらしいな?」

「うふふ」


 いつもそうやって気持ちを見せてくれたらいいのに。そうしたら……、私は好きだけど、王族としては駄目なのよね?


「ねえ、シャル。私のことが嫌いか?」

「いいえ?」


 嫌いではないから即答する。あら? ホッとなさるの? 私が本当に嫌いならどれほど冷たくなるかご存じないのかしら。


「じゃあ、婚約者になって」


 ……ズルいわ。その綺麗なお顔で切なげにされると、私がとっても悪い女みたいじゃない。

 はっ! もしかして、これが巷で話題の悪役令嬢!?


「ロティ、たぶん変なこと考えてるでしょう」


 あ、兄様にバレてしまいました。最近、お勉強の合間に恋愛小説を読むのが大好きなので。


「シャルは可愛いね」


 またそうやって溶けそうな笑顔を見せる。


「ジェレミー様。甘すぎです」

「あははっ、シャルは本当にいいね」


 ジェレミー様はきっと、王族としての彼を大切にしない私のことが嬉しいのだろう。でも、それって恋なのかしら?


「もしも私が、ジェレミー様は素敵な王子様ですね、と言ったらどうしますか?」

「シャルに褒められるならすっごく嬉しい」


 ……ん? 思っていた反応と違う。


「ロティ、諦めて。殿下はロティがロティだから、何を言っても可愛いに変換されるよ」


 何それ? 思わずマジマジと殿下を見た。


 嬉しそうにニッコリと微笑まれる。


「ごめんね? シャルの素敵なところはたくさんあるけど、私は君が何をやっても好きだなとしか思えなくて。

 衝動が強過ぎて、理由はどうしても後付になってしまう。でもそれって駄目なことかな」


 ……お母様、ヘルプ! 父様も追加でっ!!


「殿下、そろそろ勉強のお時間です」

「……残念、時間切れか」

「かなり進展されたのでは?」

「お母様……」

「大丈夫よ、ロティ」


 お母様がギュッと抱きしめてくれる。ようやっと落ち着けた。


「焦らせてごめんね、シャル。でも、私も15歳だ。そろそろ婚約者が必要になってしまう。

 私は……どうしても君がいいんだ」


 私の手を取り、指先に口付ける。

 ああ、本当に王子様なのだから!


 そのまま兄様と行ってしまうのを見送った。


「ロティ。あなたの気持ちを教えて?」


 大好きなお母様。私はただお母様みたいになりたかったのに。


「……分かんない」

「そうかしら。あなたの心は決まっているのではなくて?」


 お母様の柔らかい落ち着いた声が大好き。


「……だって。王族は側妃を持つでしょう」


 絶対ではない。現に、今の国王は王妃様しかいない。でも、王子二人しかいないことを貴族達が懸念して、側妃の話も出たことがあると聞いたわ。


「要するに、愛する方を共有したくないということね?」

「……だって気持ち悪いもの」


 私はお母様達の様に、愛し愛される結婚に憧れるの。


「それだけが理由なら、殿下にそう話してみるといいのではないかしら」

「え?」

「絶対に他に妻を持たない。愛人も許さない。それでも自分を望むのか。その先を考えるのは、あなたではなく王家の方よ」


 え、え、え? そんなこと許されるの?


「……叱られない?」


 貴族として生まれたのに、そんなことを言うのは我儘なのではないの?


「あら。婚約を急ぎたいのも、後継者問題もあちらの事情ですもの」


 そうなのだろうか。お母様が強過ぎてどうしましょう。


「それにね、まだヘイゼル公爵も諦めていないみたいだし。絶対にジェレマイア殿下と婚約しなくてもいいのよ」


 ……思わず、スンッと表情が消える。


「ガジェットは嫌です」


 だって私にブスって言ったもの!

 その後、ヘイゼルのおじい様にゲンコツされて泣きながら謝ってきたけど知らない。可愛かったから恥ずかしくて? 意味が分からない。恥ずかしいと相手を傷付けるはイコールじゃないもの。ヘイゼルのおじい様はあんなに素敵なのに。


「ふふっ、そうだったわね。でも、男の子には稀にあるみたいよ? 好きな子を虐めてしまうのですって。謎よね?」

「ね?」


 兄様はそんな幼稚なことはしないし、ジェレミー様だっていつもお優しいわ。


「シャーロットは焦って決める必要はないの。ただね、それは殿下を諦めることになるかもしれない。それだけは理解してね」


 慌てなくていい。でも、ジェレミー様の婚約者探しは待つことはできない。……誰か他の方と結婚するの?


「……ずっとこのままがよかったのに」

「そうね。母様もあなたが早くに巣立ってしまいそうで寂しいわ」

「なぜ?」

「側妃を娶らないということは、あなただけが子を生むのよ? それならば早くに結婚をと言われるでしょうね」

「……早く……」

「あなたが16歳になったらかしら」


 あと三年⁉


「……その頃までに、お胸は大きくなるの?」


 違う。言いたいのはこれじゃない。


 でもだって私の体は華奢なのよ。お母様みたいな豊かなお胸は存在しないわ。


「あら。うちの娘が可愛いわ。心配事はそれだけなのね? 王太子妃教育とか、大勢のライバルとか他にも悩みはありそうなのに」


 だってお勉強は好きだし、今までだってずっと王宮で教えてもらっているわ。ライバルだって、私以外に愛称で呼ばせる令嬢はいないもの。


「ああ、あなたはずっと王太子妃教育は受けていたようなものだしね?」


 ほら。やっぱりそうよね? 外堀なんか埋まりまくっているのでしょう?


「……何だか狡いわ」

「なんせ王族ですから」


 それなのよね。どう考えても大変そう。

 愛よりも面倒が勝ちそうなところがまた……


「兄様は私を守ってくれるかしら」

「あらあら。シリルの方が上なのね。ノアが泣くわ」

「だってお父様の一番はお母様だもの。私はちゃんと弁えていますから」

「まあ!」


 それからしばらくして兄様達が戻って来た。


「おかえりなさいませ」

「いいな。毎日シャルにそう言って欲しい」


 本当にもう。なぜこんなにも好かれてしまったのか。

 私はまだ13歳。ツルペタ女子の何に惹かれるの?


「兄様、帰りましょう?」


 途端に寂しげな表情に変わるから。


「……また明日会いましょう、ジェレミー様」


 こんな可愛気のない言葉なのに。


「楽しみに待っている」


 そんなにも嬉しそうに笑わないでよ。


 ああ、そろそろ逃げられそうにない。




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あの殿下と妃殿下の子にしては•••猫かぶってる?そのまま子犬?
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