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34.それぞれの未来

 ラザフォード伯爵とノアがどのような話をしたのか私は知らない。ちゃんと話せた、それだけ教えてもらった。

 義兄弟になるはずだった二人の話し合いは私が聞くべきことではないだろう。

 二人のわだかまりが少しでも解けるといい。そう願った。


 それから3ヶ月後、伯爵が結婚した。婚約ではなく結婚。これには少し驚いた。

 お相手は子爵令嬢で、大きな商会を持つお家だ。だが、伯爵とは派閥も違うし、どのようなご縁なのか。


「伯爵のお相手が気になる?」


 フリーダ様が楽しそう。どうやら気に入っている女性のようだ。


「あそこの商会は面白いわよ。パールが事業に参加してから視点が新しくなった。男性に交ざって辣腕を振るう貴族令嬢よ。古臭い伯爵家も今まで通りではいられないでしょう。

 でも知ってた? 彼女を紹介したのはセルヴィッジ侯爵なのよ」

「えっ⁉」


 奥様はパール様とおっしゃるのね。というか、そんな話は聞いてないのですが?


「あなたの婚約者が知ってるかどうかは微妙ね。だって、侯爵がコッソリと紹介したみたいよ。

 あなた達の前ではバッサリ切り捨てたみたいだけど、結局は気になっていたのよ。何かあったら息子が傷つくだろうしね。可愛らしいこと」


 侯爵様ったら。やっぱりノアのお父君ね。だってああ言いながらもトレイシー様の名誉を守って、賠償金だって請求なさらなかったのだもの。

 でも、どちらかと言うとフリーダ様の情報源の方が気になるわ。


「あなたのご両親になる方だもの。夫人とはお手紙のやりとりをしているって知っているでしょう?」


 まさかの夫人が情報源ですか。それは詳しいはずだわ。


「伯爵とはそれなりに仲良くやれてるみたい。安心なさい」

「はい、教えてくださりありがとうございます」


 どうやらセイディ様に負けることのない強い女性のようだ。彼がトレイシー様のことをどう伝えたのか、何も伝えなかったのか。

 ……いいえ。もう私が気にするべきことではないわね。


「人のことより、自分の式の準備は進んでいるの?」

「大丈夫です。ご心配下さりありがとうございます」

()()侍女だもの。当然でしょう?」


 ここでも侍女なのに高待遇。でも、孫可愛がりのおじい様殿下よりはいいかもしれない。


「あ、動いたわ。今日も元気ね」


 フリーダ様がお腹を撫でながら嬉しそうに語りかける。


 フリーダ様が身篭られた。懐妊が分かってから、殿下はフリーダ様の守りを強化した。警備だけでなく、精神的なものにも配慮したいとうことで、私はフリーダ様付の侍女へと異動となった。


 私が居たからとて心の支えになれるのかは分からないけれど、元気な赤ちゃんが生まれるよう、しっかりと安全面に配慮して、心穏やかに過ごしていただけるよう頑張っている。


 幸い悪阻も軽く、母子共に健康。今から赤ちゃんの誕生が楽しみで仕方がない。


「あなたも早くに子を授かれるといいわね。そうしたら友達になれるかも」


 気の早いこと。


「どうでしょうか。子は授かりものといいますし」


 ……子作りできるかも分からないですし。


 ノアを怖いとは思わない。手を繋ぐのも抱きしめられるのも大丈夫だった。でも、その先はどうだろうか。


「怖いのは当たり前よ。でも、大丈夫。一人で頑張るものではないでしょう? あなたを大切にしてくれる人となら、きっと大丈夫よ」

「……ありがとうございます」


 そうね。一人で耐えていたあの夜とは違う。二人でのことだもの。


「でもね、知ってた? 2回目でも結構痛いわよ」

「え!」

「人によると思うけど」

「脅さないでくださいよ!」

「何でもその人によって違うわ。二人での初めて。早く迎えられるといいわね。ナイトドレスをお祝いとしてプレゼントするわ。すっっっごくセクシーなやつ♡」

「お断り申し上げます」


 もう、意地悪だけど優しい。この方に仕えられて幸せだわ。いえ、殿下が嫌だったわけではないですよ?



 ◇◇◇



「「あ」」


 伯爵と久方振りに出会ってしまった。

 それまでもすれ違って会釈をするくらいはあったけれど、彼が結婚してからは初めて会う。


「久し振りだな」

「はい」


 どうしようか。つい、お互いに足を止めてしまった。


「……ご結婚おめでとうございます」

「ありがとう。君も婚約したのだよな。式はいつ頃?」

「本当ならもう少し先の予定でしたが、妃殿下の産み月と重なってしまうので、時期を早めることになりまして、来月末に挙式予定です」

「そうか、おめでとう」


 よかった。何となく気不味かったけれど、話し始めれば普通だわ。


「ノアは優しい男だ。幸せにな」

「ありがとうございます。パール夫人のこと、妃殿下が褒めていらっしゃいましたよ」

「そうなのか?」

「はい。商会のお仕事をなさっているのですよね?」


 そういったお仕事の知識は乏しいので、どのようなことをなさっているのかは分からない。でも、男性社会で女性が働くのは大変なことだろう。


「ああ、そうなんだ。とてもしっかりした女性でね。私はいつも負けてしまうんだ」


 そう言いつつも嬉しそうに笑っている。仲良くやれているというのは本当のようだ。


「おかげで家の雰囲気が随分と変わったな。

 パールは粘り強くてね、父や母にも納得がいくまで何度でも食い下がっている。でも、明るくて……とても感謝しているんだ」

「いい出会いがあってよかったです」

「お互いにな」


 それから少しだけ話をして別れた。

 今度、妻を紹介すると言われたけど、どう説明するつもりなのだろう。

 義弟になる予定だった男の結婚相手?

 かつて妹に重ねて見ていた女?

 どれも変だけどいいのだろうか。

 それでも、お会いできるのが楽しみだわ。




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