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23.生きるということ

「宰相閣下は素敵だと思わない?」

「左様でございますね」

「あら。シャノンったら心が篭っていない言い方ね。罰が手緩かった? もっと厳しくしてもらう?」

「……逆です。想像以上で驚いています」


 そうなのだ。ちょっと想像して引き気味な程度には驚いている。


「そうかしら。妥当だと思うけど」


 いえ、確かに。同じ目に遭わせてやりたい! とは何度も思いましたよ。でも、まさか。


「世の中、不思議な職業があるものですね」

「ふふ、仕事ではない方が良かった?でも大丈夫! きっと、心も体も痛みがあるから」


 ……またこの方は。存外酷い。痛みって何。


「……よく分かりませんが、詳細はお止めください。想像したくありませんので」


 せっかく目の前から消えることになって清々しているのに、苦しんでる姿を想像すると罪悪感が湧きそうで嫌だ。


「はーい。シャノンはクールに見えてピュアよね?」

「これでも未婚の令嬢ですが?」

「んふふ。最近お近付きになった男性が増えたみたいね。本命はどちら?」


 ……フリーダ様のお話の本命はゴミ処理結果ではなく、恋愛話でしたか。


「記憶にございません」

「ユージーン・ラザフォードとノア・セルヴィッジ。中々のチョイスよね。貴方はくじ運が良いのか悪いのか。どちらもお家的には問題ないでしょう?」

「どちらも友人です」


 なぜ女性はほんの少し男性と話をしただけで恋愛に持って行きたがるのだろう。


「他にご用件がないようでしたら退室してもよろしいでしょうか」

「シャノンが冷たい。酷いと思わない?」


 ぷくっと頬を膨らませたお顔は大変可愛らしい。だがケイシー様は見慣れているのでしょう。まったく表情を動かさず、


「勤務時間に下らない内容で呼び出す方が悪いのでは?」


 うん。これが本当のクールかも。


「くだらなくないわ。シャノンが来た時は護衛を外して女子トークができるのよ? 何でも夫に筒抜けなんて嫌なの。鬱陶しいのよ」


 ああ、そういえば殿下の手の者がいるという話だったかしら。


「お二人はとても仲がよろしいのに、なぜ間者が?」

「仲はいいわよ。でも、他からちょっかい掛けられたりする危険もあるじゃない? だから、お客様との会話に目を光らせているの。王太子だから仕方がないけど、会話に気が抜けなくて楽しさが半減するのよ」

「……それは大変ですね」


 夫婦仲とは別の問題なのですね。王族にしろ貴族にしろ本当に面倒なことだ。心からの会話ができないって不便だと思う。


「でも意外です」

「何が?」

「それを受け入れていらっしゃることが」


 この方ならのらりくらりと上手く躱すことも出来るでしょうに。なぜかしら。


「そうね。ただの夫婦なら束縛し過ぎで気持ち悪いわよね。でも残念ながら王族だから。一種の保険よ。同じ交渉ごとでも、聞く人によって変わるでしょう? 見逃しもあるかもしれないし」

「ご友人だけど、ご友人ではないのですか」

「利益が絡むと人は変わってしまうから。残念なことにね」


 やはり王族とは、貴族以上に面倒な生活のようだ。


「だからあなたがイライアスの信用を勝ち得たのは最高に喜ばしいのよ。こうやって自由におしゃべりできるもの」

「信用というか……、最近のあの方は孫を可愛がるおじい様みたいです。なぜでしょう?」


 あはははっ! フリーダ様が大笑いした。


「おじい様って!」

「だって、たかだか侍女相手におかしいですよ」

「あの人も信頼できる人が少ないから嬉しいのよ。友人だと思っていたオーガストがアレだったでしょ?」

「……友達がいなさそうですよね」

「そうね、残念ながら寂しい夫婦なの」


 だから、私のような毒にも薬にもならない侍女を構っているのか。喜んでいいのか分からないけど。


「わたしもフリーダ様は憧れの方ですので、こうしてお話できることは嬉しく思います。ですが、できれば業務時間外にしていただけると助かるのですが」

「そうしたらイライアスも来るけどいいの? おじい様が更に甘々で構ってくるわよ? お小遣いくれちゃうかもよ?」

「嫌です」


 今でも少し鬱陶しいのに。侍従と護衛の方々の生温かい目が居た堪れない。


「もう少ししたら落ち着くわよ」

「そう願いたいですね……」


腹黒殿下を懐かしく思う日が来るとは思わなかった。


「で、さっきの話♡」


 この方は本当に……


「どちらも友人です。はっきり言ってそういう事を考えるのはまだ抵抗があります。……まだ怖いのです」

「そうよね。でもね、少しでも恋心があるなら、今すぐ結婚とかじゃなくてもいいから大切にした方がいいわよ。

 いい男がいつまでもあなたを待っていてくれる保証はないし、お互いにそろそろいい年なのだし」


 ぐっ、いい年か……、ぐっさりと刺さったわ。


「……そうですね。いっそこのまま一人でもいいかなって思ったりもするのですが」

「あなたが後悔しない道を選べばいいとは思うのよ。でも、あなたってクールに見えて情に厚いじゃない?ご両親の気持ちとかを考えて辛くなりそうだから。それに、あの二人ならあなたの事情も分かってくれるでしょう?

 なかなかそういう方だと判断するって難しいから。心を許してから、それを理由に断られると辛いわよ」


 痛いところをグサグサと……。

 でも、本気で心配してくれてるから言い難いこともハッキリと教えてくれるのよね。

 確かにもう20歳。両親も本当は心配していると思う。それとも純潔を失ったことを伝えるべきなのか。


「ご両親に事件のことを伝えるのはお勧めしないわ」

「……読心術ですか」

「読まなくても分かるわよ」


 と言うことは本当に読めるのですね?


「もし話したら、今すぐに仕事を辞めさせられて嫁がされるわ。あまり力のない子爵以下のお家かしら。

 初婚なら儲けもの。後妻や愛人という場合もあるわね。後妻は子ができなければ3年で離縁も有り得る。止めておきなさい。

 どれ程理解のある優しいご両親でも、貴族としての立場がある。下手すると縁切りになるわよ」


 本当にハッキリと言う方だ。でも、きっとそうなるだろうとは自分でも思っていた。


「……ありがとうございます。甘えたことを考えていました」

「いいえ。それも当然のことよ」


 本当に生きていくということは難しい。





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