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14.身代わりの人生

 どうやってあのゴミを屑箱に入れるか。


 それが悩みどころだった。


 できれば侯爵家には影響を与えたくない。

 でも嫡男が犯罪者になれば、どうしても家族に影響が出てしまう。


 それならば。彼と同じことをすればいい。



「殿下にお願いがございます、宰相閣下と…」


 そこまで口に出して、この場には伯爵がいたことを思い出し固まった。

 ……しまったわ。どうやら解決策が見つかって興奮していたようだ。


「どうした?」


 そうですよね、気になりますよね。願い事を言いかけて止まるなんて。でも、この先を言ってしまえば私が被害者だと確実に分かってしまう。疑いと真実では大きく違ってしまうのに。


 この3日間の平和が私の警戒心をゆるめてしまったようね。


 どうしようか。すべてを話して協力してもらった方が楽に解決はできるだろう。でもそれは、今後ずっと彼に罪悪感を抱かせるということだ。私の顔を見るたびにトレイシー様を思い出し、彼女を守れなかった分まで私を守ろうとするかもしれない。……彼女の身代わりに。


 私は身代わりの人生しか歩めないのだろうか?


「シャノン、安心しろ。私がまた情報を宰相閣下に流しておくよ」

「………え」

「だからそんなに不安そうにするな。いつもの生意気なお前はどこにいったんだ?」

「いえ。それならば私から閣下に話しましょう。侍女殿に婚約の打診の話をしたら真っ青になっていたと」

「そうか? では頼もうかな。下手に私が訪ねてオーガストに会うと面倒だ」


 ……どうして……なぜ二人とも、まるで私を守ろうとするかのように……


「ただし! 伯爵はいい加減名前で呼ぶようにしなさい。好ましい相手をその他大勢と混同するような呼び方をする男はいないぞ。

 シャノンも。もう少し男に甘えてみろ。可愛らしくユージーン様♡ とでも呼んでみたらどうだ」


 ……守ってくれているかと思った人から思いもよらぬ攻撃が来た。やっぱりこの方は完全なる味方とは言えないのではないかしら。


「……では、シャノン嬢と呼んでもいいだろうか」


 なぜかしら。何となく気恥ずかしくなる。普通の呼び方なのにな。


「はい。では私もユージーン様とお呼びしても?」


 あ、分かりやすく固まった。

 息も止まっているのでは?


「ユージーン様、大丈夫ですか?」

「はっ! 思いの外攻撃力が高かった……」


 本当に息も止まっていたのですね。私の名前呼びは人を殺められるのだろうか。それならゴミ屑を名前で呼べば……奴を殺す前に私が死にそうだから無理だ。


「しかし……お二人は仲がいいのだな」

「はい?」

「そうなんだよ、シャノンは可愛いからね」

「はい!?」


 え、何そのおかしな台詞は。


「殿下とは仲良くないです。ただの上司と部下ですから」

「そうそう。この冷たさがいい感じだろう?」


 殿下は黙りなさい。


「要するにシャノンは私を『殿下』としか見ていないのさ。その割には不敬だけどね」

「殿下は殿下です」


 何を当たり前なことを。


「言い方が悪かったか。殿下という生き物で、男だとは思っていない。そういう意味だよ」


 殿下が男。確かにそうね。この方を男だと感じたことは一度もないわ。


「そういうものなのか?」


 ユージーン様はまだ納得がいかないようだ。


「以前、殿下が仰ったのです。絶対に奥様以外の女性と体を重ねることはないと。

 それだけだと単なる愛妻家の言葉で、愛は感じるけど信頼度はそれほど高くありません。でも、殿下がそうすると決めている理由は身の安全のためでした」

「身の安全?」

「はい。閨での行為は衣服を脱ぎ、無防備になります。更には急所を握られていますし、興奮状態になっているため、思考能力も低下していますから。

 その上、護衛は室内でなく、廊下での待機でしょう?

 とっても暗殺しやすいということです」

「なるほどな」

「だからその様な恐ろしい行為は、本当に信頼できる奥様としかできないと。

 奥様としかしない、ではなく、奥様としかできないというところに感銘を受けました」

「え、感銘を受けてたの?」

「女性としては妻以外とは交わらないという確約はとてもありがたいものですよ?」


 だって浮気男も最初は妻への愛を語るという。物語の中でも、婚約者や妻に愛をうたいながらも影では浮気しているものね。


「……私も絶対に愛する者としか関係は持たない」

「はい。ユージーン様のことは信じられます」


 なぜかしら。いつも私を守ってくださるから?

 それとも、トレイシー様の兄君だから?

 それとも……そう信じたいだけなのか。


「ちなみにこれは侍女になったその日に言われたことです。職務柄、殿下の寝室に侍ることがあるため、心配させないためと、期待をさせないための二通りの意味で伝えられましたの。ですから私にとって、殿下は殿下という生き物であって、男性とは思えないということです」


 ようはあれね。父親は父親という生き物であって男ではない。そんな感じだ。


「私は彼女のこういう賢さが気に入ってるんだ。私の言葉を正しく聞くことができる。

 私は男性か女性かではなく、有能かどうかで区別する。彼女はとても優秀な侍女だよ」


 能力重視の彼は上司としてとてもありがたい。

 更に身の安全も確保出来るのだから、ゴミ屑さえ現れなければ最高の職場なのだ。





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― 新着の感想 ―
後始末してもらっておいて反省は最初だけ、初めての性行為が忘れられなくて恋に誤認して暴走する間抜けは危なくて側近としても使えない。 遠ざけられても反省してるそぶりナシじゃ切られるに決まってますね。 あ…
その有能な侍女をボンクラにくれてやろうとしてた点は誰も忘れちゃいねぇぞ……
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