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12.過ちの正し方

 宰相補佐官が出入り禁止になったらしい。

 私がその事実を知ったのは、禁止令が出されてから2日後のことだった。


「知らなかったことに驚きだ」

「……申し訳ございません」


 これは私のミスだ。ゴミ屑の名前は基本無視していたから情報を見逃してしまったのだろう。

 でも、この2~3日の間に何が起きたのか。


「ま、そういうわけだから。よかったな、お前の苦手な美麗な顔立ちはしばらく見なくて済むぞ」

「……ありがとうございます?」


 どういうことかしら。一体何があったの?


「そういえばお前は私狙いだったのか」


 あ、話を逸らされた。


「それはフリーダ様の勘違いだとご存じですよね」

「いや? あいつはそんなくだらないミスはしないよ」


 あら意外。ちゃんと奥様のことを理解しているのね。


「女性の嫉妬をくだらないだなんて」

「まだその路線を続けるのか」


 ん~、どうやら欠片も騙されてくれる気はないみたい。


「フリーダ様は殿下のことを大切に思っていらっしゃいますよ」

「いい女だろう?」

「はい。私も憧れております」

「で? できる女同盟が結ばれたのか」


 これは……完全にバレているわね。


「……殿下はこうなると分かっていたのですか」

「フリーダは情に厚い。同じ女としてお前を見捨てるようなことは絶対にしないだろう」


 確かにそうだけど……よく分からない方ね。殿下側の情勢が変わった? それなら。


「殿下は優秀な人材をお探しですか?」

「……だったら?」

「現在18歳。まだ学生ですが有能な者がおります」

「続けて」

「ナイセル辺境伯の次男メイナード。フリーダ様の母国マカヴォイに留学しておりました」

「ああ、辺境伯の問題児」

「そうですね。誰にでも従う人間ではありません。ですが、忠誠心は高いですよ」

「なるほど。うまく扱えるかどうかは使う側の裁量次第というわけか」

「少し人見知りですが、可愛い子です」


 ちょっと警戒心が強くて好き嫌いがあるのが難点だが、上手く使えればかなり優秀な子だ。私は気に入っている。


「お前は手懐けられたのか」

「可愛い後輩ですよ」

「なるほどな。とりあえずはお前が私の下にいれば即使える人間だということか」


 どうやら興味を持ってもらえたようだ。メイナード、ごめん。勝手に名前を出してしまったわ。


「ラザフォード伯爵に伝えておこう。どうやらシャノンは年下が好みらしいとな」

「……どうしてそこで伯爵の名前が出てくるのですか」

「デートは楽しかったかい?」


 ……やっぱり情報が回っているのね。 


「楽しかったですよ?」

「それはよかった。来週、メイウッド侯爵家で夜会がある。彼と一緒に参加してはどうだ」

「!」


 どういうこと? ゴミ屑と無理矢理にでもパートナーにするつもりだったのではないの?


「ラザフォード伯爵とですか」  

「ああ。彼もそろそろ妹君のことは乗り越えて伴侶を見つけるべきだろう」


 トレイシー様のこともご存知なのね。でも……


「……私には資格がないと……知っていますよね」


 どうしてこんなことを自分で言わなくてはいけないの。


「それを決めるのはお前ではなく伯爵だろう」

「それは……」

「王族でもあるまいし、伯爵家でそこまでの調査はしない。何よりも彼自身が当主だ。彼が是と言えばすべてが解決することだろう」  


 でもそれは、彼に打ち明けなくてはならないということよね?


「殿下は……私を宰相補佐官様に嫁がせたかったのではないですか」

「そうだな。あの恋愛関係だけは駄目な男も、お前くらいしっかりとした妻を迎えれば問題なくなるだろうと思っていた。

 だが……すまない。私が悪い。私が判断を誤ったんだ」 


 何を今更……でもどうして? 彼らに何があったというの。


「突然謝られても私には何も分かりませんわ」

「オーガストの罪を隠蔽した。その謝罪だ」

「……なぜ今なのです」

「あれは危険だ。お前は早く身を固めたほうがいい。何か……おかしな執着心を抱いているぞ」

「そう仕向けたのは殿下でしょう?」

「違う。こんなことになるとは思わなかったんだ。あの時のことを悔いていると信じていた。……いや、言い訳だな。

 ただ、あいつを失うのは痛手だったし、シャノンが手駒になればいいと思っていた。お前との駆け引きが楽しかったんだ」


 やっぱり楽しんでいたのですね。こっちはいつでも必死だったのに。


「私を恨んでくれていい。それだけのことをしたと思っている。だが、今はあれから逃げることを考えてほしい」


 逃げる……なぜ私が?


「被害者の私が、なぜ逃げねばならないのです」

「頭のおかしい人間には常識が通用しないぞ。

 べつに仕事を辞めろとかそんなことを言っているわけではない。ただ、しばらくは職場と寮以外は行かないようにしなさい。そのあたりは立入禁止にしてあるから。

 なぜ被害者の自分がと思うかもしれないが、あの夜の証拠はすべて消したし、君も告訴する気はないだろう。だから、いまさら強姦罪で捕らえることはできないんだ。

 そして私は、他の罪を捏造してまで捕らえるようなことはしたくない。それも犯罪になってしまうから」 

「そこは暴君にならないのですか」

「これ以上、国民や妻に見限られるような行いはしたくないんだ。すまない」


 ……理屈は分かる。でも、あの男ばかりが得をするというの?


「あの男はこのままにするのですか」

「いや、あれは勝手に自滅するさ。自分で作り出した恋に溺れてね」




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