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1.失恋と罪


「……は?」


 目覚めるとやけに体がスッキリしている。いや、飲み過ぎで頭は痛いし、何やらベト付く体は気持ち悪い。

 だが、下半身がとても──


「はっ!?」


 なぜ裸なんだ。なぜ、下半身が乾いてカピカピしてる? 寝乱れたシーツには嗅ぎ覚えのある臭いと……血痕。


「……夢じゃなかったのか?」




 ずっと恋をしていた。グローリア公爵令嬢に。

 学園での同級生としてずっとそばにいた。婚約者がいると知りながらも求婚だってした。だが結果は──

 隣国フェヒナーの第二王子との結婚。見事に失恋した。

 王妃様の姪である彼女が高嶺の花なのは分かっていた。だが、彼女は『許されるのであれば、心のままに愛する方の胸に飛び込むのに』そう言って、そっと私の指に触れた。学園の中庭を散策しながら、人に気付かれないように、本当にそっと指を絡め、切ない笑みをくれた。

 たったそれだけの触れ合い。それでも、私の心を掴むのには十分だった。


 だが結局は結ばれることはなく、昨夜王宮で婚姻披露パーティーが開かれた。もちろん相手は私ではない。

 それでもと僅かな望みを掛けて出席し……惨敗。グローリアは終始美しい笑顔で、出席者からの祝福の言葉を受け取っていた。貴族として正しい姿だった。

 このパーティーが終われば、彼女はそのまま隣国へと旅立ち、向こうで挙式する。もう、会うこともなくなるだろう。


 それから私はゆっくりと。ただ只管(ひたすら)にグラスを空にしていたと思う。もっと浴びるように飲んでいたら周りも私の状況に気付き止めてくれただろう。だが、これでも侯爵令息としてのプライドはある。醜態をさらしたいとは思わなかったから、ただ、ゆったりと、だが永遠に杯を重ねていたのだ。


 そこからは途切れ途切れの記憶。

 女性を押し倒し、その豊かな胸に吸い付き、『駄目、違う、許して』と泣く女性に、私もなぜ?と泣きながら、その体を暴いた。深く穿ちながら、『好きだ愛してる、グローリア』と何度も囁きながら、その体を貪った。

 ずっとグローリアだと思っていた。だから、『グローリア、グローリア』とずっとその名を呼んでいた気がする。


 ……待て。最低過ぎないか?

 酒が抜けた今、相手がグローリアじゃなかったことだけは理解できている。あれがグローリア本人だったなら、今頃は城中大騒ぎになっていることだろう。

 ならば、私は見知らぬ令嬢を他の女性の名で呼びながら犯していたということだ。途中、痛いと言っていたのを聞いた記憶もあるし、血痕も残っていることから相手は純潔。

 あれ……これは、死んでお詫びをしなければいけないレベルでは?





「お前は馬鹿か?」


 友人でもある王子に相談した後の第一声がこれだ。正し過ぎて何も言えんよ。


「ああ、その通りだ。だが、このまま無かったことにはできない。まずは相手の女性に謝罪しなくては」

「結婚をせがまれたらどうするんだ」


 確かにそれは考えた。だが、


「それは私の一存では決められない。家が絡む問題だから」

「確かにな。だが、探すと言っても……もう少し特徴はないのか。胸元のホクロだけでは探しようもないぞ。顔は? 瞳の色は?」

「薄暗い室内な上、乱れた髪で隠れてハッキリとは……暗めの髪色だったくらいしか。あ、だが、ドレスでは無かった!」

「では、参加者ではなく使用人か。だがなぁ、昨日は参加者が多かったからな。連れて来た使用人なのか、もともと王城で働いている者か。事を荒立てない方が相手のためだろうから内密に調べさせよう」

「……すまん」


 女性にとって純潔であることはとても大切なことだ。特に貴族女性であれば必須事項だろう。

 ここ(王宮)で勤めている女性は貴族位の者も多い。早く見つかるといいのだが……。




 しかし、あれから一週間たっても被害女性は見つからなかった。


「相手も知られたくないのだろうな。医局を訪れた者もいないし、翌日、急に休んだ者もいなかった。

 お前が使った部屋も会場から少し離れていたから目撃情報もなし。お手上げだな。

 あとは一年後にお前の子だと赤ん坊を連れた女性が現れないことを祈るしかないだろう」


 ……酷い言い草だが事実だ。これ以上騒ぎ立てて偽物が現れても困るし。


 そこまで話していると、メイドがお茶を運んで来たため、会話を中断する。


 何ともなしにお茶を注ぐ姿を見つめる。

 こんな子、今までいたか?


「君はいつから殿下付きに?」


 つい気になり声を掛ける。


「ああ、お前はまだ会っていなかったか。前任者が結婚退職することになってね、引き継ぎが終わって今日からの勤務なんだ。新しく私の専属侍女になったクロート伯爵の次女のシャノン嬢だ」

「このたび、王太子殿下付侍女となりましたシャノン・クロートと申します」


 青みがかった黒髪に瞳はアメジスト。派手さは無いが清楚な感じの綺麗な女性だ。


「ああ、初めまして。私はオーガスト・マクニール。殿下とは学生からの付き合いでこうして度々お邪魔している」

「こんなでも宰相補佐官だ。これからも顔を会わせることになるだろうから覚えてやってくれ」


 挨拶をしたが緊張しているのか? あまり微笑みもせず、よろしくお願いします、とだけ答え、部屋を出て行ってしまった。


「……クールな子だな?」

「ん? いい子だぞ。それにお前の顔にも見惚れないし安心だ。王子より王子みたいだと言われてるのにな。欠片も頬を染めず冷静な態度。とっても気に入ったよ」


 いや、お前だって人気がある癖に。


「艶やかな金の髪に神秘的なサファイアの瞳! って女性を虜にしていたのにな。最近振られ続きじゃないか」

「……一人にしか振られていない」

「グローリアだろ? 一夜を共にした娘にシャノン。一週間で三人だ」


 イライアスが指折り数えている。告白してないのに振られたことになるのか?


 あの時の女性は私が不快だから何も告げずに逃げたのだろうか。一体どこの誰だったのだ……。



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