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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

戦死者が少ないから頑張っていないと叱責された騎士団長が悪役令嬢と共に戦う話

作者: 山田 勝

 王国を揺るがす事件が起きた。


 ウィンザー侯爵令嬢が次期王妃殿下であったが、その義妹に恋心を抱いた陛下が義妹を王妃に、侯爵令嬢を義妹のメイドにするとのとんでもないスキャンダルが起きた。


 心中穏やかでないウィンザー侯爵令嬢は王都を脱出しこの地の砦で捕捉された。

 付近の農民や冒険者を集めて砦に立てこもり徹底抗戦の構えだ。


 それで、一番近い領地のこのブッカー騎士爵領の騎士団長の俺、ハルト・ブッカーに討伐命令が下ったのさ。


 陛下は。


「いくら、国費を使っても構わない!徹底的に潰せ」

「御意!」


 と仰り。


 王妃殿下からは


「でもぉ、お義姉様は生きたまま捕らえて来てね」

「御意」



 と条件をつけられた。


 王都で王命を受けて、領地に戻り軍勢を整え。すぐに砦を包囲した。




 見たところ砦は千人も収容できない。

 こちらの軍勢は騎兵八百、歩兵三千、雑役兵が千二百の総勢約五千の軍勢だ。

 その後方支援を入れれば軍勢は1万を越える。


「まずは水場の確保だ」

「了解」

 近くの泉、小川に兵を配置する。


 敵は出てきたが、簡単に撃退出来た。


 それと並行して。


「陣地を作れ」

「了解」



 陣地構築、投石機を砦から射程圏内に配置する防御陣地だ。


 すると、敵の小勢が出てきたが撃退した。



「陣地が出来ました。次は?」

「あ、そう、待て」


 2週間ほど待ち観察する。

 その間に食料の確保、近隣の領主、村長たちと会談する。


 指で輪を作り覗く。望遠魔法だ。


「敵は普通だな」

「団長、古地図を手に入れました。どうやら砦内に井戸があるようです」

「分かった。どうりで敵は普通だ」


 攻城戦の時、敵に水源がない場合は、ワザと水ありますアピールをするものだ。


 敵から見える場所で馬に小麦粉などをかけて洗っている風を装ったりと強がりをするものだ。

 それがない。いや、知恵がないのか?無駄と分かっていてもするものだが。

 井戸が生きていると思う方が無難だ。



「良し。力攻めだ。戦闘予行をせよ」

「了解」


 図上演習はしてきた。

 それから・・・と思っていたら、敵が降参をした。


「こ、侯爵令嬢が一人で来ております!」

「な、何だって!」


 銀髪は肩まで降ろしている。目は翡翠、やや細い顔は好みが分かれる美人さんだ。


「丁重にお迎えしろ。専用の天幕を用意しろ・・」


 慌てている自分に気がついた。何だ。虚を穿かれた気分だ。


 話を聞いた。


「・・・降伏をしますわ。条件は、私を慕って集まってくれた方々を解放することですわ」


「・・・根絶やしにしろと言われているからな。しかし、今夜は女神教の祝祭だ。お祝いをする。北の方は手薄になるであろう」


「分かりましたわ。私は人質としてここにおります。手紙を届けて下さいませ」


「了解だ」


 検閲をしたが、綺麗な文字だな。今までの感謝と逃げるように書かれている。


 後で分かったことだが兵は数百か。


 準備期間は砦についてから一月、小競り合いでこちらの戦死者は26人、向こうも同じぐらいだ。


 手紙を早馬で王都に届け処置を待った。父上にも報告だ。


 ご令嬢には信頼できる兵を見張りに置いた。周りの兵に乱暴されたら可哀想だ。見張りは味方にたいしてつけた。近隣の農家のご婦人をメイドとしてもつけた。


 やったぜ。手柄だ。どんなお褒めの言葉が来るかと思ったら・・・・





 ☆☆☆王宮


「ハルト卿、国費金貨1万枚を使って、一月もかけて砦を攻略した。戦死者はたった26人だと!」


「はい、陛下・・・」


「なら力押しにすれば!1日で決着ついたのではないか?更迭だ!」


「御意」


「ねえ。お義姉様は?政務をして頂かないと、私には無理だわ」




 ・・・・・・・・・・・・・・・




 ☆☆☆砦付近



 7日目に、逆感状が来た・・・叱責だ。何で?


「ハルト・ブッカー殿、その麾下の部隊長!任務の理解が足りない!褒賞無し。元ウィンザー侯爵令嬢クリスティンを王都に連行したら、官職を解く!身分は平民だ」


「何故でしょうか?」

「陛下はお怒りだ。戦死者26名ですんだ戦いだ。しかも敵は多く見積もって1000ではないか?

 少数精鋭を砦に突入させたら簡単にすんだ。それなのに1万近い軍勢を集め。時間をかけて

 国費を無駄にした」


「それは結果論でございましょう?逆です。大軍を集めたから、それだけの戦死者ですんだのです。いえ、26名でも多いくらいだ!」


「屁理屈を言うな!」

「早朝、クリスティンを縛り出立せよ。軍団は解散だ!」


 心の中の闇に炎がともった。



【畜生!】


 使者が帰った後、机を蹴っ飛ばした。


「はあ、はあ、はあ、はあ、お前達にも褒賞無しだとよ!」


 荒れた。背後から声をかける奴がいる。女だ。鈴の音のような声。クリスティンだ。


「団長殿、国政は陛下の気まぐれで乱れています。諫言を申す廷臣は王宮を追われ。今は佞臣のみ。政務を行う能力はありません。ですから、私は生かせて捕らえよと命令をされたのですわ」


「だから!」


「策を申しますわ。私を王宮に連れて行きなさい。如何にブッカー殿の戦術が恐怖を感じさせ。降参せざる得なかったか。陛下を説得します。私がいなければ政務は滞りますわ。団長殿の官職を保障するように説得しますわ。陛下は気まぐれですからもしかして上手く行くかも知れません」



「阿呆!令嬢の情けなんて・・・・」

「なら如何しますか?功臣が迫害されるのが今の王政ですわ」


 まるで、心の隙間に染み渡るように令嬢の声が届いた。

「謀反を起せと言うのか?」

「そうは言っておりませんわ。ブッカー殿の良いと思うようにお進み下さい。ここで私を殺すのも手ですわ。民に迷惑がかかりますが、王政は崩壊するでしょう」


「分かった。言ったな」




 と反乱を起すことにした。


 父上に絶縁状を書いてもらうようにして、弟に跡を継がせるように手紙を書いた。



 兵は半数以上帰した。

 と言うか残ってくれた。


 歩兵数百で砦にこもり。騎兵は砦を出て遊撃隊として使う。また、使者として使う?


「私が手紙を書きますわ。決起を促します。先代の王に弟君がおられましたわ。王族を抜けて市井に下られていますわ。たしか男爵の爵位だったと思いますわ」


 ぼつぼつ手紙の返事が来て。

 大物からも返書が届いた。


「辺境伯様から傍観の返書が来ましたわ」

「信用できるのかよ」

「ええ、辺境伯令嬢と私同級生ですの。それに辺境伯のサインがありますわ」

「本気かよ。手紙が敵に渡ったら・・・」

「フフフフフ、敵国に備え乱を鎮圧出来ないと言い訳をするつもりですわ」



 それから王国の討伐軍が来た。

 数百と言う所だろう。黒色軍だ。王の親衛隊で少数精鋭だが、世襲を重ねて弱体化はしているが侮れない軍勢だ。


 中にはデブがいたが、徒歩でいきなり吶喊とっかんして突撃してきた。


 こう言った場合、どんなに速くても柵を築いておけば一瞬足が止るものだ。止ったところで矢を射かける。ワザと弓の射程圏内に柵を設けた。


「弓を放て!」


 柵を壊して、突撃してくる者には、上からウンコの詰まった壺を投げつけた。


 籠城側の問題点は、ウンチがたまること。これは結構な問題だ。

 前の籠城戦で残っていた。



「な、何だって、卑怯な!」

「正々堂々と立ち会え!」


 熱湯を浴びせ。石を投げつけ。白兵戦になる前に撃退出来た。


 奴らはエリート、しかし、戦術は進化する。

 彼らの想像する騎士物語のような戦場は古いものだ。


 地を這い。汚物にまみれる戦場は想像出来ても実感は出来ないだろう。


 数回撃退したら、兵団はスゴスゴと退散した。


 次は数千、これも撃退した。


 次は万を超える軍勢か?主力か?


 やっと、敵は攻城の難しさを理解して投石機まで用意した。

まるで俺が攻める時と同じじゃ無いか?いや、もっと金がかかっているぞ。いいのかよ?


敵は投石を始めた。



「放て!」


 岩が飛んで来る。

 外柵は倒され。盾を持った重装備の兵が押し寄せる。


 慎重に砦まで近づき・・・・砦内に入ったときに


「な、何だ。これは?立木に鎧をつけている」

「麦藁で作った馬だ!」

「何か濡れているぞ・・・これは油だ!」


 ボア!と火が上がった。


 俺たちは砦を油まみれにして逃げたのだ。遠くから火矢を放ち火事を誘発した。



「クリスティン様、上手くいきました」

「これからは終わりの始りですわ」


 呼応した領主達に助けられ、俺たちは流浪の旅を続けるはずだったが、

 この砦に手間取っている間に各地で不満を感じていた諸候が決起し王都は陥落しただと。辺境伯は約定どおり傍観を決め込んだ。



 王国軍が1000にもみたない砦に敗退を重ね。

 クリスティン様が手紙を書きまくった成果だ。


 先代の王弟殿下の子息が王位を継ぐそうだ。

 王とその妃はどこに行ったか分からない。


 噂じゃ。農家に傲慢に食べ物をねだる夫婦と取り巻き達が来たが、村人に捕らえられ袋だたきにあい男たちは死亡、女は娼館に行ったとされるが、それが陛下と王妃だったかは定かではない。


 おそらく、平民の服で落ち延びたのはいいが、傲慢さは抜けなかったのだろうな。


 クリスティン様は新政権に呼ばれて、俺と別れた。書き置き1枚残してだ。

 少し寂しい。


 書き置きには、

『新政権の呼び出しには絶対に応じないようにお願いします。貴方のクリスティンより』


 とふざけた物言いだ。


 実際に、新政権に英雄として来ないかと言われたが断った。

 俺に政治は無理だ。

 俺は騎士爵領に戻った。絶縁はされてなかった。


 弟に家督を譲ろうとしたが、


「嫌だよ。実戦経験を積んだ兄上の人望に及ばないのはわかっているもの」


 なら、嫁だ。

 と母上に頼み探してもらったが、どこも良い返事は来ない。

 弟も遠慮して婚約者との結婚は控えている。


 母上に不満をぶつけた。


「俺、ハンサムではないけれども、不細工でもないよ・・・」

「少し、待ちなさいね。あら」


 ハラリと手紙が落ちた。


「母上・・て、これはクリスティン様からの手紙・・・」

「母は何も知りませんわ!」



 何々、

『ハルト様の婚姻は待つように、処理が終わったら領地に赴きますわ。

 貴女の忠実な義娘より』


「まさか、母上、最近、ドレスや宝石を新調したのは・・」

「さあ、母は何も知りませんわ」


「お兄様!お義姉様が来られましたわ!」


 おっきな熊さんのヌイグルミを抱っこして、妹ベルタが呼びに来た。見たことないヌイグルミだな。


「それ、王都の職人レベルのヌイグルミじゃない・・そう言えば、ベルタも、ドレス良いのを着ているね・・・お姉様って誰だ?親戚のニッキーか?」


「王都のお義姉様だよ。買ってもらったの」


「母上・・・て、背を向けて逃げないで下さいよ!」


「ハルト様!」


 この声はクリスティン様だ。振り向いたらクリスティン様がいた。旅用のドレスを着ていた・・・



「あのクリスティン様・・・」

「お待たせしましたわ」


「待っていません・・・よ」

「フフフフ、障害は全て取り払いましたわ。私、実家とは縁が切れておりますの」



 聞けば、王都では次の主導権を狙って内紛が起きていたそうだ。


 もし、俺が王都に行ったら・・・・


「間違いなく、祭り上げられて、政変は大きくなったでしょう。今上の陛下は辺境伯を後ろ盾にしておりますわ。辺境伯には如何にハルト様でも分が悪いでしょう」


「そうだけど、俺は・・・何故無事なの?」


「ハルト様は私の体を褒美として政権の官職の座を辞退したと言ったら、皆は納得したわ、キャア」

「キャアじゃねえよ!まるで俺は好色男じゃないか?ええ!」


「あら、お嫌かしら。グスン、グスン」

「お兄様、王都のお義姉様をいじめちゃだめ!」

「ベルタ、これは嘘泣き・・・ああ、もう、どうにでもなれだ!」


 何か、戦略で負けた気分だ。だが、心地よい。クリスティンとは妙に馬が合う。




最後までお読み頂き有難うございました。

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さすが元次期王妃。外堀も埋めておきましたわ、って感じです? あれ?俺、尻に敷かれてない? と思う頃には幸せになってるでしょう(^_^)v キャア♡
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