13. やっぱり死んでた……
8月11日更新です。
悪魔族使徒、出花亜斗夢を退けた。
少年の失礼な捨て台詞に、仲間たちが怒ってくれたが……。
お顔はプリチーなのに、小憎ったらしいクソガキだった。
だがしかし、何と言われてもしょうがない。事実はひとつ。俺の着ているのは、ヒッキーのダサイ服装である。
己を知るということは、馬鹿になる代わりに、惨めさに甘んじることである。
それよりお前のへんちくりんなのはどうなんだと、最後に突っ込んでやれば良かったが……。
「確かに……これじゃ戦えないね」
「え?」
那美は直角に開いた右手の親指と人差し指を顎に当て、俺の服装をじっと見つめてそう言った。
イヤイヤイヤ、そもそも戦う仕様じゃねえし……これに何を期待するとか?? 仕草じたいは可愛いけどな。
「装備なんとかしないとね。前のはどうしたの?」
前のって言われても、俺には何の覚えもない。
さあ、どうするか……
おお、そうじゃ、いっそこの手があった!
「フッ、記憶と一緒に、失くしちまったみたいだぜ……」
那美の可愛く整った顔が、ちょっと難しい表情を作る。
「記憶、かなり失くしちゃったんだね……」
すまん、不甲斐ない俺で……これから随時思い出すから。
「そうすると、装備だけ吾朗くんが死んだ場所に、残されているってことかな……」
「えええ!?」
ちょっと待て、今、超サイテーにヤバい言葉を聞いた。
そして何とも言いようのない、この違和感。
夢の中で死んでた設定に、終わらない予感。
ゾクゾク腰の方から、上がってくる悪寒……。
(あ、韻になった。いや、今そうじゃないだろ!)
この嫌な感じはなんだ?
やっぱり俺って死んでるのか?!
実はただの夢じゃなくてだ、臨死体験で見る明晰夢だったりってことか?
もしこれが、ただの夢じゃなかった場合……確かにそうだ、あまりにはっきりし過ぎている。
だとしたら、この死者の彷徨うヤバい世界――隠世か……、そこに造作も無く入ってきて、死霊を倒したり、妖怪ぶっちしたりしてるんだ。
感触も、明晰夢なんかより、さらにリアルだ。
つまりはガチで死んだか、良くて死んでからの異世界転生ってとこか?
さっきの事故現場で脳か心臓やられて、目下俺の肉体は集中治療室か、その先の霊安室ってことなのかも知れない。
そういやこの数日、誰とも、母さんとさえ喋っていないのを思い出した。「ダイジョブだ安心しろ、お前近ごろちゃんと生きてたぜ」って、肩叩いてくれるヤツは、誰もいやしない――そもそも論、そんなダチがいないのは置いといてだ。
今日入ったコンビニでさえ、買い物すらしてないぞ?
ポニテのちょっと可愛い店員さんには、俺が見えない存在だったというのさえ、否定できない。
実は自室のベッドで倒れたまま腐乱死体になってたなんて、一番悍ましいシチュエーションだが、あり得ない話じゃない。
いや、もしかするともしかしてだ、実は俺はあの事故現場で死んだ犠牲者の一人で、まだ自分が死んだことに、気づいてないだけなのかも知れない。
死んだのも分からず彷徨う霊の話とか、どっかで読んだ気がする。
この夢は、俺自身が死んだことに気づくための物語なのか?
「……うわっ!」
そうやって事故のことに意識を向けると、突然あの四つ角を襲った恐怖の瞬間の映像が、脳内に喚起された。
暴走トラックの若い運転手の、何も映さない狂った眼差し。
突っ込んでくる途中で、人形のように軽々と跳ね飛ばされていく人々。
俺はあの十字路を歩いていて、隣に那美もいる。
唸りを上げて迫り来るトラックを目前に、俺は彼女を突き飛ばして逃がす。
そして次の瞬間の衝撃!
そんな映像がふっと、脳裏に浮かんだのだ。
これは――ガチでヤバいのかも。
もしホントにそうだったら母さんご免、先立つ不幸を許してくださいってことになる……。
だがしかし、やはり妄想癖が昂じただけなのかも知れない。
ちょっとおかしくなった、俺の夢である可能性の方が高いんじゃないか。
俺が死んだどうのこうのも、夢の設定であるのなら別に何の問題もない。
主人公は自身の死をどう受け止めるのか?
そして那美は、失われた大事な記憶を呼び覚まそうとする。
次回 14話「夢見の夢」は、8月12日公開予定です。




