12. 夢と幻想と悪魔族
メッセージ通り、水生那美が危険な存在であったのなら……どんな可能性がある?
彼女は俺を騙して、罠にはめようとしているとか?
そうか! 判ったぞ!
実は彼女は、高円寺に封印されていたラスボスだ! 俺に結界を破らせて、復活しようとしているのだ!
でもまあ、それならそれで、ぜんぜん構わない。何が起きても、夢を楽しんでしまえばイイわけだし。
彼女がラスボスなら、俺は側近の悪役となって、物語のラストまで付いていこう。
……いや、でもちょっと待て。
このTReEメッセージは、夢の中で受けたのか?
それとも現実で受けたんだっけか?
もし現実だとすれば、今の夢はその言葉を元にして、俺が自動構築した妄想ってことになる。
メッセージも含めて夢だとすると、かなり俺の妄想も高度に手が込んできたと考えるべきだろう。
どちらにせよ、リアル感も、より強まっている。
それだけ俺の人生、妄想と夢と現実がゴッチャになった、ヤバい領域に達しつつあるってことかも知れない。
だがしかし、これも本望だ――そう……
妄 想 こ そ 力 な り !!
……とはいえだ。どっから夢だったんだ?
俺はまだ、ベッドから1ミリも外に出てないとしたら、かなり辻褄が合う。
ヤドゥル人形もみんな夢……いや違う、ゴミ箱に捨てたまでは現実だ。その後寝たまま、まだ起きていないってことか。
それとも、最初に思ったように、あの事故現場で倒れたってこともあり得る。
もしかしたら現実の自分は、くも膜下出血とかヤバいことになっていて、今頃集中治療室に横たわっているのかも知れない?
そしてこれが、死の前に見るといわれる夢だったりして?
警告メッセージは、それを暗示している?
それとも俺は、気がつかないうちに寝てたとか……そう、たとえば昼起きたあとにアニメ見ながら寝堕ちしていて、厨二病的な夢につながっているだけなのかも知れない……。
(おっと! どうした?)
急に那美が立ち止まった。
俺の混乱した気持が、夢の中のメタ的異物として、伝わったのだろうか? 那美の気が緊張を帯びている。
ここは落ち着け、俺。
夢の中で夢を疑うと、夢は消え、現実……ここの設定でいう現世が近づき、その結果目を醒してしまうのだ。
(まだ、夢を終わらせたくない!)
強くそう願った。
俺は彼女と、もっと一緒に居たい。もっと冒険したいのだ。
気を取り直して、夢の続きをやろう。
「さあ、行こうか、那美――」
そう言うか言わないうちに、那美が急に振り向いた。
次の瞬間、いきなり俺を、思い切り突き飛ばしていた。
さっきのお地蔵様を投げ飛ばした馬鹿力だ。俺はシャッターの降りた商店まで、勢いよくすっ飛ばされた。
バシッ!
俺の背中がシャッターをバーンと響かせるより先に、鋭い音がした。さっきまで俺が居たところで何かが弾けた。
「お姫さま!」
続いてヤドゥルの青いマジックシールドが、那美の前で砕け散るのが目に入った。
(奇襲!? どこから??)
那美はアーケードの前方を、きっと睨んだ。
目をやると、そこにはひとりの少年が立っていた。
那美の緊張は、そいつのせいで、俺のぐらつく気持ちは、関係なかったようだ。
少年の背後には、もうパル商店街のゲートが見える。
すでに霧は晴れかけていて、向こう側、現世の昼間の風景が、何か水を通して眺めるかのように、ぼんやり映っている。
中学生くらいだろうか。けっこう可愛い顔立ち。
しかと立っている様子は、さっきの亡霊とはまるで違う。
これは生きている人間だ。
それに今や俺は、気を読めるんだった。
その雰囲気からすると、やや邪悪かも知れない、険のある気だ。
少なくとも、こちらに友好的って感じではなさそうだ。
いや、それって、攻撃仕掛けてきてるんだから、気を読まなくても分かるだろ。
ガキンチョは、リアル中坊らしい声変わり前の高い声で、妙にフレンドリーかつアゲアゲな感じで話しかけてきた。
「ワーオ! こーんな場所で、こーんな有名人に出会えるとはね♪ 国津神第一の使徒、振蒼死手、水生那美さん」
狙っておいて、俺のことは無視かい。
「いきなり術式を放つとは、礼儀知らずにも程がある!」
那美が俺の手を取り、立ち上がらせると、顔を寄せて小声で伝えてくる。
「出花隼。悪魔の使徒よ、何するか判らないキレッキレの子だから、気をつけて」
「あの子が悪魔のって……」
「見た目ちっこいですけど、油断大敵ですん」
(そりゃ、お前もだヤドゥル)
それにしても、ちょっと変わった格好をしている。
野球のヘルメットみたいな帽子には、耳のような尖ったものが、鋭角に突き出てる。
でかめのブーツのくるぶし辺りにも、そんな感じの鋭角なやつが付いている。
胸には何か昔のゲームのコントローラーを思わせるプロテクターがあり、そして右目にはスカウターみたいなゴーグルだ。
(ガキ向けアニメ風だな)
もう少し厨二寄りデザインに、できなかったものか。
だが、可愛い少年には、ちょうど似合っているのかも知れない。
「なーんか新しい隠世が出来たみたいだから様子見に来たんだけど……もうお姉さんたち国津神が支配しちゃったんですか?」
「そう、だからここは大人しく退くがいい」
「ちぇ、つまんないの。狩りもだめですか?」
「無駄よ。この隠世はまだ狭いし、ほとんど狩るべき超常の者が居ない」
那美のこの態度は、俺へのややデレ感とは、打って変わってとても厳しい。
戒めを破壊する宣言をしたときもそうだが、彼女のそうしたときの言葉には、強い意志が込められている。
まるでそれが、ひとつの効果を持った呪文のように、凛とした波動がビリビリ伝わってくるのだ。
その言葉に気圧されたのか、あっさりと出花少年は退くのだが……。
「なーんだ、わざわざ来て損しました。それじゃ僕は帰ります。んー、ところでそっちのお兄さん、第三使徒でしたよね、確か。なのにだっさい格好ですねー。水生さんのバディとはとても思えないんですけど、ハハッ」
(なに!?)
「失礼なことを言うと………」
「殺しますん!」
「あ、はいはい、消えますよ。そんな怒んないでくださいって」
俺のファッションをディスったクソガキは、薄ら笑いを浮かべて商店街のゲートの向こうへと消えていった。
8月10日更新!
敵対的悪魔族使徒の出花隼が、去り際に放った言葉が、主人公のファッションにクリティカルヒット!
彼の引き籠もりウェアはどこまで耐えられるのか??
次回 13話 「やっぱり死んでた……」をお楽しみに!!




