表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/244

11. 戻らぬ記憶

 注連縄をぶった斬ったせいなのか、アーケードの霧は晴れかかっていた。


 未明の夢の続きのように、俺は那美の手を引いて意気揚々と歩いている。


 あの夢の中では、頭もぼうっとして足も重かったが、今は意識も明瞭、足取りも軽やかだ。


 二人の前を、ヤドゥルが先導して行く。

 さぞや可愛いドヤ顔をしているに違いない。


「主さま、現世に戻っても決して隠世のこと、そして使徒のことは口外してはなりませんの」


「ヤドゥルちゃん、そんな当たり前のこと、今さら言うまでもないでしょ」


「そうだね……もちろん、そうさ」

 と請け負う。


「念のためですん」


 心配には及ばないぞヤドゥル。

 人の夢の話ほど、つまらないものは無いというからな。

 誰も聞いちゃくれない。


 ――そもそもの話、聞いてくれる友達いないし。


 だけどネットに上げるとしたら――本当に異世界に行ったって体験談風にアレンジすれば、そこそこ受けそうな話だ。


「吾朗くんは、この世界のこと、どこまで思い出せたかな?」

「そ、そうだね……まだ、あんまり……」


 思い出すも何も、何を忘れてるのかさえ判らないのだから、どうしょうもない。設定優先の夢としては、ありがちな罠だ。


「自分が国津神の第三使徒だっていうのは、判るんだよね?」

「うん、まあね」


 クニツカミは後でググろう。確かに聞き覚えのある言葉だ。


「私が第一使徒だってのも?」

「え? 君も使徒なの?」


「……………………!!」


(しまった!)

 この軽率な一言で、那美はさすがに頭を抱えた。

 そしてちょっと頭をブンブン振ると、顔を上げる。

 こちらを見据えて、にっこりと微笑んだ。


 その笑みは、絶対に私は諦めないぞっていう、決意の表れだったのかも知れない。だがしかし、ややほっぺたが引きつっている。


「今回はだいぶ重症ね。でもきっと思い出せる」


「今回はって言うと……」


「前回は赤竜を倒したときですん」


「その時は、私の名前忘れたくらいだったから、良かったけど……」


「すまん……その……」


「私たち二人とも、ずっと前から国津神の使徒なんだよ。もともとは、私が吾朗くんを引っ張り込んだんだけど……。それから私たち、一緒に何度も隠世で戦ってきた。それがお互いの絆……っていうか、パートナーシップ? それを――うんと強めたんだもの!」


 いや、ちょっと待て。

 俺ってさっき、ヤドゥルに言われて、使徒になったばかりだよな。

 てことは、ヤドゥルも俺が初めだって知ってるはず……?


 目をやると、変わらぬあどけない表情。

 どうも人形の表情は、読めないってことか。


 でも「ずっと前から」とか「何度も」とかって、これもやっぱり俺が忘れてるってだけって設定なのか?

 さっきのは、すっかり記憶が無いのに気づいて、ヤドゥルが話を合わせたってことか。


 うーん……だが、まあイイってことよ。


 夢の中の細かい矛盾は、別によくあることだ。

 だけど、彼女と隠世で戦ってきたというのは、ちゃんとしておきたい。


 俺は那美と異界のことに、想いを集中させた。

 そう、いつも望みの夢を見たいときするように。


 無心になると同時に、彼女と一緒に戦ったことに絞って想像した。

 そうして彼女とのエピソードが、何か降りてこないかを待ち受ける。


 すると、夢の続きみたいな感覚が呼び覚まされ、幻像(ヴィジョン)が現れた。


 不思議な空間を、彼女と疾走する映像が、頭を()ぎる。

 イメージはどんどん動き出す。


 行く手に異形の姿の敵が幾つも現れ、二人で力を合わせて(ほふ)っていく。


 俺は緋色の槍を振るう。

 那美の得物は、とても彼女に似合っていた。

 妖しく蒼い光を放つ、一振りの美しい日本刀だ。


 そう、これでいいんだ。

 俺は那美をずっと前から知っていた……OKダイジョブそうだ。


「マジでヤバかったんだから。使徒の力もほとんど封じられてたし……しかも武器も(シン)もなしだよ。でも、きっと吾朗くんが今度も助けに来てくれるって信じてた」


 少し前を歩く彼女が、振り向き振り向きしながら言う。


「前にも君を助けたんだよな」

「思い出した?」


「うん、君の蒼い刀と俺の朱の槍で戦ってきた」

「そうそう! その調子で思い出してみて!」

「あ、ああ……そうだね……がんばる……よ……」


 そこでやっと思い出してしまった。

 それは彼女との過去の話じゃなく、在りて在る者からの、あのメッセージをだ。


[警告する。水生那美に近づくな。]


 一気にネガティブな思いがわき上がった。

8月9日更新です。

順調に世界を「思い出し」てきた主人公。

しかし、ここにきて記憶に刻まれた警告メッセージが、アラートを鳴らす!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ