10. 注連縄を斬る!!
しかし、刃はわずかめり込むだけだった。
押しても引いてもそれ以上いかない。
「ダメね」
「クソ、なんでだ?」
しかし彼女の表情は、ぜんぜん諦めた風じゃない。
「力の出し方、忘れちゃった?」
と、小首を傾げる。
そうか、何でも忘れた設定にすれば、話が上手くいきそうだ。
なにせ俺は記憶喪失だ。
「どうやるんだっけ」
「じゃあ、私があなたの力を引き出すから。コツを思い出して」
「俺の力か……」
「国津神の第三位の使徒として持てる、大いなる力だよ。それに私の力も加えてみるからね」
第三位使徒とは、俺のことか?
この後の展開の期待に、厨二魂が慄くぜ。
「わかった。やってみる」
「まずは、二礼二拍手一礼したあとに、武器を両手で捧げるように持って、私の言うとおり言ってみて」
那美と一緒に礼と柏手を打った。
そのあと、那美のするように、社に向かって胸の前で手を組むようにして柄を持ち、刃を上向きに構える。
「幸魂、奇魂、守り給え、幸へ給え」
凜とした那美の声が、境内に響き渡る。
「幸魂、奇魂、守り給え、幸へ給え」
俺の声は――まあ、大して強くない。それなりだ。
「幸魂、奇魂、守り給え、幸へ給え」
呪文のように同じ言葉を繰り返す。
さらに辺りが震えるように強く。
ならば負けじと声を張り上げた。
「幸魂、奇魂、守り給え、幸へ給え!」
「「幸魂、奇魂、守り給え、幸へ給えーーーー」」
三回目は一緒に唱和した。
すると腹の底の方が、かっと熱くなった。
そこから力が、ぐいぐいとせり上がってくる感じ。
「つながった!」
と那美。
「これが!」
確かに来てる感覚がある。
「さあ、戒めを断ちなさい!」
その力ある言葉が、まるで俺の体内から発するようにして共鳴する。
彼女の言霊は、辺りに高音で反響して、強く響き渡った。
呼応するかのように小刀がオレンジ色に輝くと、俺の手の中でぐんぐん大きくなっていく。
光は2メートルもの長さになり、ずっしりと重量がかかった。
「おお!」
光に包まれでかくなった武器は、よくあるRPG風の大剣ではなく、かなり細い感じ。
そして輝きの中から現れたのは、朱色の槍だった。
光は収束され、気の揺らめきのように、槍全体を包み込んだ。
穂先からは、特に強くほとばしり、焔のように立ち上っている。
槍の穂先まで、俺の血が通っているかのごとくの一体感。
その上から、那美の手が重ねられているように思える温かさ。とても強くて、生っぽい脈動までもが感じられた。
穂先は小刀の特徴をそのまま引き継ぎながら、刃渡りは五十センチと倍ちかく伸び、ずっしり手応えのある重さとなった。
全長は2メートルくらいだが、槍としては短槍に入るのだろう。
眼の前には、俺の背丈より少し高いくらいの鳥居が連なる。白い紙垂が下がる注連縄は、太く硬い。
俺は朱い気の揺らめきをまとった槍を、上段に構えた。
一応高校の時は、体育の選択授業で剣道を取っていたけど、きっと槍もこんなものだろう。
「いやあっ!」
と、裂帛の気合い――まあ、自分なりにだけど、悪くない感じだ。
あれだけ硬かった注連縄は、豆腐でも切るかのようにするりと斬れた。
そして魔物たちが死ぬときのように、光の滴になって消えていった。
次々と鳥居に渡された注連縄を斬っていく。
ふたつ目からは、手前の鳥居が邪魔で振り下ろせないが、突いて押し切る感じでも効果は充分だった。
「主さま、お見事ですん!」
七つすべての注連縄を切り捨てたときには、けっこう疲労困憊して、ぜいぜいと肩で息していた。
槍もまた、小刀に戻ってしまった。
何だか漢として情けない感じがするのは気のせいか。
「ちょっと力出し過ぎかな。もっと少ない力でも切れたと思うよ」
「そ、そうだよね……ははは、久々でちょっと力んじゃったかな」
「でもよかった! これで一緒に帰れるね」
彼女は子供のように嬉々として、小刀を下げた俺の手を取り、両手で包み込んでくれた。
(うわ、柔らか!)
それに何て滑らかなんだ。
前の夢で触れたときより断然リアルだ!
しっとりとした白い手はとても温かくて、そこからエナジーが補充されたみたいにして、疲れが一気に吹っ飛んだ。
「さあ、行きましょう!」
那美の笑顔が、とびっきり眩しい。
以上、8月8日更新しました。
ついに鳥居の呪縛を破り、アーケードの通りに出た三人。
主人公の失われた記憶を取り戻すには?




