9. 敵はいっぱい……
でも、一応礼を言っとくべきだな。
「それでも助かったよ、ありがとう」
すると、那美はちょっと困ったような顔をして頭を振った。
「そんな、お礼なんて言わないで。言うのは私の方だよ。助けに来てくれてありがとう。今回は誰にも連絡取れずに、本当にもうダメかと思ったんだもん」
「携帯とか、通じないよなあ」
「うん、ダメだね。きっと家でも心配してるはず」
「だよねえ。もうどのくらいになるの?」
「ここでは時間の感覚が狂っちゃうから、正確には分からないけど、たぶん……現世では二日ぐらいだと思うよ」
「それは心配してるよな」
「吾郎くん昨夜……正確には今朝の未明に来たって言ってたでしょう? でも私にとっては、あれから三、四日ぐらい経った気がしたよ」
「え? そんなにかい? てことは……閉じ込められて、もう二週間くらいずっとここに居るような体感?」
「うん、だいたいそんな感じ。もう死にそうだったんだから。神社の外には死霊がうろついてて、武器が無いから危険だし。話し相手は人格壊れたあの子だけだし、すっごい退屈だし」
あの白木鬼、思い込みが激しそうだ。
那美のことを大事にしていた様子だったけれど、一方的に粘着してたんじゃないか。
「にしても、どうしてここに閉じ込められたの?」
「分からないの。気がついたらここに居て……」
「じゃあ、誰に閉じ込められたのかも分からないってこと?」
彼女は黙って頷いた。
「心当たりも無し?」
今度は首を横に振ると、不穏な言葉が那美の口を突いて出た。
「敵はいっぱいいるから……誰だか分からないよ」
「そか、敵いっぱい……だね」
こんな可愛いJKに、いったいどんな敵がいっぱいいるっていうんだ?
俺、これからそいつらと戦うってことかい?
「もう……誰も信じられなくて……。白木鬼だって国津神族だから仲間のはずなのに、私の世話役兼監視役とかいって、むちゃくちゃ近すぎる距離感で懐いて……というか、粘着して精神的に支配しようとしてくるし」
ん? クニツカミゾクってなんだっけ?
しかしまた質問して記憶がどうのと中断するより、とにかく先に進もう。
「それで俺をここに呼んだんだね? でもどうやって?」
「神社の宇迦之御魂さまに、ひたすらお願いしてたんだ……どうか助けてください、相馬吾朗を私にお遣わし下さいって。それが通じたかのな? それで……」
「宿得が来たのですん」
ヤドゥルが小さな胸を張る。
「白木鬼が街をパトロールしている隙に、まずはヤドゥルちゃんが来てくれたの。それで吾朗くんのところに行ってもらったんだよね」
ヤドゥルはウムと言うように、大きく頷いた。
「アストラル体で主さまが来られた時も、ヤドゥルが白木鬼を別のところに連れ出していたのですん」
「そうか、なのにいろいろ覚えて無くてごめんよ」
「ううん、こうして助けに来てくれたんだもん」
俺を見つめる那美の表情が、ようやく明るくなる。
「まだ君を助け出してないよ」
「そうでした。まずは結界を破らないとね」
「結界?」
「鳥居に注連縄があるでしょ? あれが問題だって分かったの」
確かに七つの鳥居全部に、不釣り合いに太い注連縄が掛かっている。
「注連縄を断ち切ってくれる?」
「この小刀で?」
「切れないかなー?」
那美はちょっといたずらっぽく尋ねた。俺の力を試してるってか?
ここは期待に応えなくちゃだ。
「やってみるよ」
抜いた小刀を、改めてじっくり見る。
まっすぐだけれど、中ほどがやや膨らんだ感じで、刀身の地は黒っぽく、両刃になった波文の無い直刃の剣だ。
こうしたものの価値は分からないのだけど、かなりのワザモノって感じの存在感はある。
これはチート武器設定に違いない。
さっきの硬い白木鬼の体も、難なく切り裂くことができたのだ。
うん、それならいけるだろう。
ふうっと息を整えると、注連縄に思いっきり小刀を突き立てた。
パッと青い光が飛び散った。
8月7日更新です。
なぜ水生那美は閉じ込められたのか?
これから二人の脱出劇が始まります。




