3. ヤドゥルの碧き瞳
現実世界では何の役にも立たない我楽多が、こっちでは強力な宝具に変化することがあるのだ。
俺たちは、キップルがトレジャー化すると呼んでいる。
逆もありで、隠世で手に入れたすごいアイテムが、現世ではガラクタになる。
その法則性は依然誰にも分からないのだけれど、何らかの人の想いが、モノに憑いているのじゃないかとされている。
人の想いが、キップルを媒介として隠世にトレジャーとして顕在化するのだろう。
隠世に謎の金属ケースを持ってきていれば、俺が何らかの危機を感じたとき、自動的に装備となって装着されるのだ。
……てことは俺ってば、そんだけビビってた?
確かに、ギリ間に合った感で、心臓バクバクもんだったけどな。
スーツだけじゃなく、俺のスマホもこっちに合わせて、不思議なギミック手帳に変身している。
なので「スマホだったもの」というわけだ。
ライトを照らす機能なんかもより自在になっていて、強力なビームライトにも使える。
スマホ自体、もともとキップルとはいえない高価なものだから、どういった法則で現世の品がこちらで変化するのかは、ほんと良くわからない。
チンピラたちのスマホには、特に変化はないわけだし。
もちろん武器もあり、いつでもこの手に得物とすることができる。
そう、まだ武器を構えてないってことは、一応冷静な己が残っていたといえるわけだ。
いろいろ見た目が豹変したわけだが、実は中身の俺も劇的に強くなっている。
こんな外道チンピラ二体など、徒手で軽くあしらえるほどに。
つまり、こっちに誘い込んだ時点で、すでに勝負は付いているのだった。
(………てことは、頭では分かっていても、内心超ビビリーってか?)
ま、この際どっちでもいいやと開き直る。
だって今の俺さま、超強いんだし!
「で、どうなんだい? ヤドゥル?」
俺は傍らに立つ、小さな影に話しかけた。
白にうすく紫のグラデーションがかかった蓬髪、古風な白の水干に浅葱色の袴を身に着けて、凛とした佇まいで侍るのは、まだあどけない表情を残した可愛らしい幼女だ。
右手には緑い笹の枝を下げ、碧玉のつぶらな瞳には、何ともいえない表情――蔑みと嫌悪と氷の無関心とを混ぜ合わせたような――極寒の色を湛えながら、二人の男を見つめている。
「支配されてはおりませぬの。されど……」
「されど?」
「仕向けられたようですん。アストラルの糸が見えますの」
「よく見えるな」
俺にはさっぱり見えない。そうとう細い糸なのか? それとも純真な心持つ者にしか見えないマーベラスな糸なのか……。
「それって、どの神族から送られてきてるんだ?」
「隠世からは現世の方までは、見えないのですん」
「一番めんどくさい感じだなぁ」
さて、どうしたものやら……
「さっさと片付ければ良いですの」
「そうだよな……まぁ、それが一番手っ取り早いワケなんだが」
「んだと、ゴルァ!」
でかい方のクズ一男が、前に出て威嚇してくる。
「ぁにゴチャゴチャほざきゃあがって、アタマ虫わいとんちゃうか、こんクソヤロウが! 命乞いすんなら、今のうっちやで!」
キャンキャン口数多く吠えるのは、クズ二男だ。
「ちょっとだけ黙っててくれるか?」
「っんだとぉ!! ぶっ殺されてーのかっ!!」
(フッ、今の俺にとってはそんな脅し、ぜ~んぜん怖くも何ともないもんね)
「放置すればまた使われますん。糸があるゆえ、いつ何時完全に支配されるやも……」
「糸って切れない?」
「切っても、あちらに戻れば、また繋がりますの」
「そっか、じゃあまあ、仕方ないか」
「打ち殺すのですん」
「うーん……そうだねえ……殺しちゃう?」
「はい、とっとと亡き者にするが良いですの」