6. 押し通るために
俺の目的は、この奥のお姫さまだ。当然先に進まなくちゃだ。
「ああ、そのつもりだ」
「ならば容赦せぬ。大切な大切なお姫さまに、穢れた毒虫を近づけるわけには参らぬ」
毒虫はひでえな……確かにいろいろと穢れてるのは確かだと思うが、リアルではまだ童貞だ。キスすらしたことない。ほっとけ。
脳内一人ボケツッコミが、オートマチックでサクッと完了する中、ここは大人の対応でぐっと我慢。
法改正で俺も成人になってるしな。
「出来たらお前とは戦いたくないんだ。だからそこ、どいてくれないか?」
すっかり何かの主人公みたいな感じで、自分でも笑っちゃいそうだ。
実際ちょっとニヤケていたのかも知れない。
その口元を見られたか――
「何が可笑しい。妾の顔が、何ぞ奇妙に見えるか?」
その小さな口が怒りに震えるでも無く、淡々と言葉に憎悪の波動を乗せてくる。
すんごく嫌~んな感じだ。
「いや、そんなことぜんぜんないよ。お前はけっこう可愛い顔してると思うぜ」
と返してやると……
「わ、妾が可愛いだと?」
と、呟いてポッと赤くなる。
そして照れ隠しのようにして
「たわけたことを申すな~~!」
とか叫びながら打ちかかってくるわけだ。
華麗にそれを躱しながら、当て身で倒し、組み抑えるとしぶしぶ負けを認め、以後妙なツンデレ・モードになって懐いてきたりするのが、設定としては良いと思うのだけど……
「油断大敵ですん!」
甘かった!
「これでも~~~~可愛いぃがああああああ!!!」
その端正な顔が、ガバッと真ん中で上下に割れた。
断面はハロウィンのカボチャの口のようにギザギザで凶悪、顔全体がまるで牙なのだ。
その大口が猛烈な勢いで、こっちにすっ飛んできた!
こんなのに噛みつかれたら、ただごとじゃ済まない!
「主さま!」
ヤドゥルが笹の枝を振った。
ばっくり割れた顔面が迫る! 思わず両腕で庇う。
何かが化け物と俺との間で、青く光った。
ガッ!
と、硬質な音はするのに、腕に来るはずの衝撃がない。
そのあぎとは、目の前で停止していたのだ。
今やバックリと割れて、ぎざぎざの牙となった少女の顔面が、ガラスのような透明の壁に阻まれて宙に浮いている。
開いた口の内部はどろどろして、粘膜が蠢く赤黒い混沌だった。
「マジックシールドか!?」
その八角形の透明な壁には、青く光る魔法陣らしきものが描かれていた。
牙の先端が食い込んだ部分も青白く光っている。
「主さま、剣でそのまま突くのですん!」
「こっちからは出来るのか?」
「出来ますの!」
八角形のシールド越しに、思いっきり剣を突き出した。
ビニール袋でも突くように、するっと刃が向こうに渡る。
「ギャラゴゲエエエエエエ!」
化け物はこの世のものでない叫びを上げて、紅黒い血を吹き出しながら転げ廻った。
「主さまとどめを!」
小刀を構え迫った。
すると、化け物の大きな口は再び閉じ、可憐な少女の姿に戻った。
額からくすんだ色の血が滴り痛々しい。
俺がやったんだが!
「堪忍してくださりませ。妾は無理矢理、姫番をさせられていただけ。ご無体はご容赦くだされ」
8月4日更新です。
これから基本的に毎日更新していきたいと思います。




