5. 待ち受ける者
もと人形のくせに、ほぼ人と変わらぬ足取りでしっかりと歩いて行く。
でもどこか人形臭い――そう、パントマイムみたいな動きで可愛い。
そしてときどき振り返って、俺を確認する仕草も超可愛い。
ただし、俺には幼女趣味はない。断じてない。
「ヤドゥル、お前って現世では、ちっさな人形なんだよな?」
「隠世でも人形ですん」
「え? そうなのか? じゃあ、誰に作られたの?」
「禁則事項ですの」
「なんだそれ?」
「世の中には、言ってはならぬこともあるのですん」
まあ、そういうことも良くあるのだろうけど、良く分からない。
俺の妄想も細部までは作り込まれていないってことのようだ。
これは却って楽かも知れない。
未設定のところは、皆禁則事項で押し通すことでOK了解だ。
「さあ、ここですの」
そこは現実には無い、昨夜の夢で見た神社だった。
奥に朱の鳥居がずらっと並んでいる。
前の夢ではかなりの数の鳥居があったように思えたが、せいぜい七つか八つくらいだ。
するとお姫さまってのは、あのセーラー服の波打つ黒髪の美少女のことに違いない。
当然そうなるだろう。
もう一度会いたいと、念じたかいがあったというわけだ。
こいつは期待に胸が膨らむ。
今度こそ、キスできるチャンスをものにするぞ。
彼女の名前は……そう――ナミだ。
そうしたんだっけ。
前回は名前を思い出せなくて、目が覚めてしまった。
今回はダイジョブだ。
俺は背をかがめて鳥居をくぐっていく。
やけに大きな注連縄が、すべての鳥居に掛かっているから、見た目も圧迫感あるし重圧を感じるものの、前回の夢ほどじゃない。
鳥居を抜けると、その先にはヤドゥルくらいの背格好で、赤い和服を着た少女が立っていた。
(おや? 前の夢の少女と違う)
おかっぱ頭で、顔はきっちり左右対称に整っている。
幼いながら美しい顔立ちだ。
妙に色白過ぎて、その様子はどこか人形じみてはいたが……。
「この子がお姫さまだったのか……」
「あ、主さまお気をつけを」
「今度はなんだい?」
「お姫さまの守役に、化け物が付いておりますん。そいつですの」
「それ、先に言えよ!」
そう言われてみれば彼女のまとっている気――そう、俺はいつの間にそうした気が感じられるようになっていた。
夢ではこうした都合の良い設定変更はありがちだ。
その幼女の気は暗く、怨念のような雰囲気を漂わせていた。
人ではあるまい、というのが見ただけで分かるのだ。
ヤドゥルも、はっきり化け物って言ってるんだから、確かにそうなんだろう。
覚悟を決めると、両刃の小刀を鞘走らせた。
「何者か?」
和風美少女が殺気を纏って一歩前に出る。
「この御方さまは、お姫さまの背の君にあらせられるのですん。汝がごとき化け物は、おとなしく下がるですの」
ヤドゥルはすぐ横で、えらく居丈高に命じた。
「かような木偶の世迷い事を、信じられるものかえ」
「で、木偶!」
「ははは、木偶は無いよな、ヤドゥル」
めちゃ怒って前に出ようとするヤドゥルのおでこを、くいっと手で抑える。
「んあ! 主さま、そこは離してくださいませ」
「待てよ、俺が話してみるから」
「お前さま……ここを押し通ると言うのかえ?」
その声はまだ幼い少女のものだが、強い。
8月3日の更新はここまでです。
次回をお楽しみに!
ちなみに私にも幼女趣味は断じてありません。




