表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/243

7. 不気味人形

「宮古島、伊良部島、下地島など、沖縄県の離島では、台湾民兵組織の不法占拠が続いており、海上自衛隊の艦船がこれを取り囲んで――」


 今日も動き無しだ。

 島民が人質に取られていて、自衛隊は下手に動けないらしい。

 かといって民兵側はこれ以上増援ができないし、離脱もできない。

 どうするつもりだ?


「台湾を実効支配する中国政府は、民兵組織「紅陽」との関与を否定し、直ちに武装解除するように呼びかけて――」


 そらぞらしい話だ。中国支配下で、民兵組織が勝手に軍事行動を取れるはずもないだろう。


「在中国の邦人全員に、対テロ対策として共産党の人民解放軍兵士が護衛に付けられていますが、事実上の人質とも考えられ、日本政府は中国大使を召喚し、質問しています」


 実にやり方が汚くて巧妙なんだな。

 日本は同じことを在日中国人には出来ないし、出来たとしてもまるで効果ないだろう。


「民明党の細田総理は中国政府を通じて、あくまで平和的な話し合いで解決をと………」


 やれやれ、話し合いでどう解決できるんだろうね。

結局憲法九条では日本を守れなかったわけだし、安保条約だけじゃアメリカ軍も助けてはくれないってのが分かっただけだ。


 そして自宅警備員(ひきこもり)の俺に、何かできるってわけでもない。


 宮古島に行って、日本のために戦いたいなんて、これっぽっちも思わない……――ってこともなくはないんだが、だがしかし、結局さいごには仮想愛国戦士様も、睡魔に敗れ去るのであった。


 『EGO』のbotはそのままで堕ちよう。

 雑魚狩り程度なら、どうせ見つかっても垢バンくらうこともないだろう。

 ――垢バンってのは、アカウント停止処置で、しばしゲーム世界から追放刑ってことだ。


 モニターの電源だけでも切っとこうと、手を伸ばしたときに気がついた。


「人形?」


 そいつはヘンテコな姿をしていた。


 ごわごわした素材の薄紫色の太い糸を、ぐるぐる巻いて作られた小さな人型だ。


 白色のボサボサな髪の毛が付いているほか目鼻もなく、とても可愛いと言えるシロモノじゃない。

 むしろ気味悪い。


 見覚えがないモノが自分のデスクに置かれているってのは嫌な気分だし、それが不気味人形ときた日には、もう何だか背中がゾクゾクくる。


「母さん――……じゃないよな……」


 これはどう見たって、母さんの趣味じゃないと思う。

 でも、もし母さんだとしたら、自宅警備員(ニート)化した俺への何らかの警告ってことなのか?


 うん、やっぱり母さんだ。


 だって、母さん以外にここに入る人が居るわけがないだろ。


 いや――、だがちょっと待て!


 さっき寝堕ちする前には、無かったはずだぞ……。

 うむ、断じて無かった! そこまで俺はボケちゃいない……はずだ。


 となると椅子で寝ている俺の部屋に母さんが忍び入って、この人形だけそお~っと置いて出て行ったってことになる。


「イヤイヤイヤイヤ」


 それは無い……というか無いと思いたい……いや、断じて無い!

 もしそんなことがあったとしたら、さっきのナナルとのチャットも、読まれている可能性だってある。


 絶対的にそれだけは拒否する!

 あってはならないことだ!


「ってことはだーー………………」


 とりあえず、この人形は無かったことにしよう。


 触ったら、呪いか何かが伝染するような気持ちがして、ビニール袋に手を入れて、直接触れないようにして人形をつかみ、そのまま袋を裏返して包んだ。


 他のゴミもついでに上から詰めて口を閉じ、ゴミ箱にサクッと棄てて廊下に出しておいた。


 明日か明後日はゴミの日だろう。

 ゴミ箱ごと廊下に出しとけば、あとは母さんが会社に行くときやってくれるはずだ。


 俺はベッドに横になると、人形のことはすぱっと忘れようと、さっきの美少女の夢をじっくりと思い出していた。


 続きが見られはしないかと念じながら、目を閉じる。


 するとたちまち、あのセーラー服を着た彼女の姿形が、ありありと目に浮かぶのだった。


 とってもキレイだったよなぁ………髪の毛もワカメみたいなウェーブで、目も口もめちゃカワイイ………名前何だったっけ………ああ、思い出せなかったんだ………夢の中でも。


 じゃあ、適当に名前を付けて上げればいい。


 ヒナタ……ちがうな……サキ……まあまあかな……それとも……モモカ――イヤイヤ、柔らかすぎだ……カナンとか? いや……でも、ナ…は、ありだな……ナナ……ナナルは、ちがくて……ナナセ…………ナミ…………ナミだな……………


 何か夢を見たような気もする。


 取り留めもないイメージの断片だったが。

 さわさわと、あの少女の波打ち流れる黒髪が、俺のほほをなでる感触があった。


 突然、近くで燃え上がる熱い炎。


 長く終わりのない陰鬱な回廊を、どこまでも進んでいく。

 それにあの不気味人形が、喋ったりとか踊ったりとか。


 そして……名状しがたい異形なるモノ(笑)との死闘。


 そんなものを、モヤモヤと頭蓋の裏にこびりつかせながら、お昼近くに薄暗い部屋で、ゾンビよろしくぼうっと起き上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ