5. 妄想こそ力なり
別の日にはおなじ井の頭公園にある、植物園や動物園にも行ったんだ。
小さくて地味な動物園だけど、由希名はすっごくはしゃいでた。
「きゃあ、ラクダこんな近くで見るの初めて!」
「あんま近づくとよだれが飛んでくるぞ」
「ひゃっ!」
ラクダが首を振ると、辺りに滴が飛び散った。由希名が背後にジャンプして逃げ出す。
「ほら、言っただろ」
「セーフ!」
「かからなかったの? 運動神経いいんだな」
「はい、由希名はラクダごときに、やられたりしないよ!」
自慢げにガッツポーズで微笑む彼女は、最高に可愛い。
動物園の奥にある、ガラス張りの温室になった植物園は意外と大きくて、不思議な熱帯の植物たちがジャングルさながらに繁茂していた。
「わあ、森の中みたい」
「すごいね空気が違うよ」
「こんなおっきな木……これってシダなんだって!」
まるで木のように太い幹からシダの葉が勢い良く茂っている。
さっきから由希名は見上げてばかりだ。
こんな大きなシダを、白亜紀の草食恐竜たちはモリモリ食べていたのだろうか。
俺はデート中なのに、シダの間からバカでかいパラサウロロフスが、重たげに首を突っ込んでくるのを夢想する。
「ほら、あれ見てご覧!」
「きれい、きれい! え、なに、なに、何の鳥?」
由希名は初めて見る、赤い大きな鳥に興奮している。
「ベニコンゴウインコだよ」
「インコなのにデカ!」
「大きいインコは沢山いるよ。オウムだってインコの仲間なんだ」
「へえー」
「わ、冷てえ」
「きゃ、雨!?」
天井のスプリンクラーから、シャワーが降ってきた。
彼女の手を引いて木陰に避難する。
植物園はしっとりと水に濡れ、熱帯の香気に包まれている。
「ダイジョブかい? あーあ、濡れちゃったね」
「ヘーキヘーキ、まるでホントのジャングルみたい!」
二人は肩を寄せ合って、雨が上がるのを待っていた。
そして九月も秋が深まる頃、ディズニーランドの花火の下が、ファーストキスだった………。
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なーんて、学校の知り合いとかには絶対言えないような作り話しも、ネットで書き込めばレスを貰える。
そうなると、さらにそれがホントの事だったような気がしてくる。
目を瞑れば、その情景をありありと思い浮かべることができる。
こうなると、妄想と思い出の差はナイ!
さっきのナナルだって、俺の妄想恋愛をホンモノだと思ってるんだ。
みんなが信じれば、ヴァーチャルだろうとなんだろうと、さらにリアルに近づいていく。
妄 想 こ そ 力 な り !
若干十九にして悟りを得た、俺の座右の銘である。
人間が脳の生き物である以上、これこそ真実なのだ。
ただ妄想と言っても、ふつうに願うことを想像するだけじゃ終わらない。
やはり、リアリティは大切なのだ。
そうしたイメージが神の啓示の如く、最初から降りてきたワケじゃない。
いろいろな物語を読んだり見たりして、それを自分の中で熟成させて、新たな妄想を生み出してきたんだ。
さっきの井の頭公園の体験だって、実際ボッチで行ってみて、知り得た情報を下敷きにしているわけだし。
ラノベはもちろんだけど、美少女ゲームのストーリーも大きな妄想資源となる。
ただのエロゲーと揶揄する奴もいるが、エロシーンはあくまで美少女たちと織り成す、胸焼き焦がすような恋のご褒美、余禄として出現するに過ぎない。
……もちろん無いと、そりゃ物足りないんだが、それはリアルの恋愛だってそうだろう。
シナリオテキストなど読まずに、エロシーンに行きつくために、ただただクリックするエロ萌え豚も多いらしいが、そいつらはゲームに寄生しているだけの、惨めなワームのような存在だ。
美少女ゲームの本質は恋愛であり、その切なさなのだと断固言いたい。




