2. ダイジョブだナナル
そのチャット・ログの最後の方を読みながら、自虐的に自問自答する俺ってば、陰キャ染み付いているわけだし。
[ナナル:ごめんねレオン、何時間もつき合わせちゃって…]
―――はははは、何でいつもこうなんだろ。
[レオン:いや、いいよ。どうせ惰性で狩りに行くくらいだったし]
―――ほんっと俺暇だからな。そういや俺のアバター名、レオン……ナナルはカッコいいって言ってくれたんだったな。
[ナナル:もう、レオンにしか相談できなくて…]
―――お前の愚痴、もう誰も聞いちゃくんないもんな。
[レオン:役に立てたならいいけどさ]
―――毎回同じことの繰り返しだけどなー。いい加減気づけ。あ、自分もか。
[ナナル:立てたよ! クララ立ったよ立ちまくりだよ! レオンは他のギルメンと違ってリアルでも恋愛経験つんでるし、アドバイスもひと味まったりと濃いんだよ]
―――うははは、我が妄想恋愛力はリアルを凌駕するのさ。
[レオン:別に好きで積んだわけじゃないけどなー、経験なんて]
―――くそ! くそ! くそ! どうしょうもない大嘘だ!
[ナナル:あ、ごめん! そんな意味じゃないんだよ?]
―――うん、そりゃそうだ。こっちがオカシイ。
[レオン:分かってるってw]
―――そうだよ、まるっと分かってるんだ俺自身は。そうさ……分かってるんだ。
[ナナル:じゃあ、そろそろおちるね]
―――ああ、どこまでも堕ちていくがいいぞ、ナナル。
[レオン:そか、寝れそう?]
―――俺もすでに眠いんだが、いやしっかり寝てたが………。
[ナナル:うん。レオンのお陰だよ。夢に見ちゃうかも]
―――え、チョイ待て。俺の何を夢に見るんだよ。そこに俺のアバター出てきても、俺自身としてはちい~とも嬉しくもなんともないかんな。
[レオン:夢ん中で火傷するなよ。それよりタムローンと仲直りすんだろ?]
―――これで何度目だっけ? 別れる別れないって……にしても火傷って火傷って――。
読みながら思わずジタバタしてしまう。我ながらキモ過ぎる。
しかし、ナナルにはこのくらいの言い方で丁度いいんだ。
そう、俺は自ら心の血を流しながら、彼女に奉仕してる。
この熱い漢の魂、分かってくれっ……ナナルっ!
[ナナル:うん、ゼッタイ仲直り……でもダイジョブかな?]
―――ああ、ダイジョブだって、しっかし、一晩に何度ダイジョブ言わせるんだ。最低でも百回は言ってるぞ俺様ってダイジョブ王子か?
[ナナル:ホント、ダイジョブだよね?]
―――ああ、ダイジョブダイジョブ~。
[ナナル:ね、レオン?]
―――なんだよ。
[ナナル:あれ? レオン寝ちゃった?]
―――あれ?
[ナナル:おーい、おーい、レオンくん!]
―――はい、しっかり寝堕ちしたようですね自分。
[ナナル:起きろ―! 寝たら死ぬぞー!]
―――ここは雪山か!
[ナナル:ごめんねー、遅くまで付き合わせちゃって!]
―――ぜんぜん悪いと思ってねぇだろ。
[ナナル:愛してるぜよ❤]
―――本気にすっぞ、ゴルァッ!
[ナナル:おやすー❤]
―――はいはい、おやすおやす~~~。
[ナナル:おやすー❤]
―――なんだ? 大事なことだから二回言うのか?
[ナナル:おやすー❤]
―――ダイジョブかナナル?
[ナナル:おや∬ゞ〓新宿∃戦∴始ま∀よ〓§ヾ#@愚%%&∀&]
―――っなんだその文字化け。ナナルもキーボードに突っ伏したのかよ。でも、新宿ナントカ戦? そんなコラボとか、イベントあったっけか?
って――――――…………
「はああああああああああ~~~~、なにやってんだか………」
深夜にも関わらず、二度大声上げるに至る近所迷惑王子。
いや、王子はやめとこう。
「ほんっと、不毛ってゆーか、………我ながらキモイすな」




