11. 暗転
それでも重くて充分痛いが。
さらにドスンと、別の重たい何かが床に落ちる音がする。
「うふふふふ……こ~れはこれはこれはーーーっ!!! 実に、実にマーベラスなる不覚であろうーーっ!!」
横たわる俺の視界には、アスモデウスの肥満体に別れを告げた醜い首が、軟体動物のような太い青舌を、でろりと出して転がっていた。
長身の黒いローブと、立ち往生した悪魔の肉体は、幾本もの紅く鋭い刃で貫かれていたのだった。
その刃は、少女が沈む血溜まりから、まっすぐ生えるようにして伸びていた。
「見事一本取られたのであろう………うふふふ……うふふふふふ……やれば出来るではないか……あの時に出来ていれば何も……
……だがしかし、楽しみであろうぞ……良く…ぞやった……アヤ……」
そう言い残すと、プロフェッサーの体は、影のように黒くて曖昧なものに分解された。
影は藍色のアストラル・ドットを撒き散らしながら、ふわっと霧散して消えていく。
アスモデウスの巨体と転がった首は、キラキラとエーテルの雫となり、ゆっくりと散っていった。
真紅の刃もまた元の血の塊に還ると、床にぶち撒けられて光と弾けた。
ヤドゥルの身体は、その場に横たわり、残されている。
(まだ……生きている……のか?)
ヤドゥルとアヤの方に、手を伸ばそうとする。
だがしかし、俺は血を失いすぎた。
意識が……そのまま薄昏い闇へと落ちていく。
床を這う俺の血が、アヤの血と混じり合い、そこから蒼く美しいアストラルの炎が上がった。
それが何を意味するのか、俺には分からない。
(まだ、夢を終わりにしたくない)
俺が呟いたのか、アヤが願ったのか、言葉が浮かんだ。
もう痛みも、何も感じない……ただ、ひとつ……舌の上の違和感だけが残っていた。
何かが床を引きずられていく感触……遠のいてゆく過去の出来事のように……
……俺はひとりで……何かの中に横たわり……
すべてが暖かい大きな流れに、包み込まれようとするそのとき……。
「………………ロウ…! ……ゴロウ…! ……吾朗くん―――!!」
あの人が、水生那美が、悲痛に呼ぶその声が、俺の存在の内奥なる虚ろに響き渡り、満たし、揺動し、一瞬意識を呼び戻した。
「吾朗くん……助けて!」
助けて……だと? あの、振蒼死手と仇名された彼女が?
クソ! 何が起きた!!
だが………残念だ……悔しい……
立ち上がることさえ、できやしない!
今すぐそこに駆けつけたい、彼女を助けたいと強く願った。
……どうか……那美………
俺のエーテル体の目が、冷えた涙を流しているのを、最期に、感じた。
――――そしてすべてが闇に閉ざされた。
第6章終了、相馬吾朗、一色アヤ、ヤドゥルは、一体どうなってしまうのか?
続きの第7章は公開済み!!
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