10. 血の剣
俺は力を振り絞って立ち上がり、ブーツから取り出した暗剣を打つ。
ヤドゥルは俺の言葉に反応し、横っ飛びする。
暗剣が燃える手指の先に刺さり、腐敗毒が悪魔の中指を黒く染めていく。
しかし次の瞬間、ヤドゥルの上半身と頭は消えた。
アスモデウスの巨大なその手に、握りつぶされていたのだ。
「ヤドゥルーーーー!!!」
応えはない。
ヤドゥルを握るアスモデウスの手は、燃えながら腐り落ち、ボロボロとくだけていく。
やがてヤドゥルのぺしゃんこになった頭と上半身が現れ、コトリと床に軽い音を立てた。
「おい……ヤドゥル……ヤドゥル! 返事をしろ!」
腐敗が腕を上っていくが、背中から伸びた青い棘槍が何本も腕に突き刺さる。
アスモデウスは自ら右腕を切り落とした。
パンパンパンパン……
室内の奥から手を叩く音が近づいてくる。
「すーばらしい! 見事なる瞬時の反撃! だがしかし、ここまでであろう。
うむ、いいぞ、良くやった相馬吾朗くん、そしてそのパイロット、ヤドゥルとやら!」
「澁澤~~!!」
「やるのだ、偉大なる王アスモデウスよ」
ブスブスと炎痕から煙を上げながら、悪魔の巨体がのそりと動く。
その背の七本の蒼い棘がぐんぐん伸びて迫りくる。
俺は実体化させた魔槍を振るい、棘の槍をいなし、かわし、駆け抜ける。
しかし、右足を一本にひっかけられて転倒。
残りの槍が上から降ってくる!
俺はブーツの底で爆発を起こし、床を滑って逃れるが、すでに槍で逃げ場を塞がれていた。
背で床に刺さる青槍の柵に当たり、移動停止。
すかさず立ち上がり避けようとするが、脚に力が入らない。
(クソ、これまでか……)
失血が酷い。
エーテルパワーも、限界まで削られていたのだ。
しかし、蒼槍は俺に新たな穴を穿つことはなかった。
力なく、俺の上に落ちてきたのだ。




