7. 色欲のアスモデウス
「それにしてもだね君……、大洋の王にして嫉妬のリヴァイアサンの首を、あ~んなに空高くふっ飛ばすとは! いやはやなんとも、雄健蒼頸であろう。
完全体ではないとはいえ、魔王リヴァイアサン相手になかなか出来ることではない。
君の当意即妙の兵法の上手、シンの掌握力、大いに評価の対象であろう。
そうだ、そうであろうとも、相馬吾朗く~ん、吾輩は実に感激した。
すこぶる刺激的な一戦であろう!」
出血で意識が朦朧としてくる中、その男は長舌を振るいながら、大股で室内を歩く。
動かぬ少女を横目で一瞥すると、一瞬にがにがしい表情を浮かべる。
しかし、すぐに槍に突き上げられた俺に振り向き、酷薄な笑みを浮かべた。
「さ、て……無駄に力を持て余し~、暴走する若者を、しかと躾けるのは~、大人の役目であろう。うむ、うむ、そうだとも!
今回もしっかりと、お灸を、据えさせて貰おうかね、いいかね? 相馬吾朗くーん。
おお、いと気高き王よ、オリエントの盟主にして色欲のアスモデウスよ、この若者が二度と吾輩に逆らおうという気を起こさぬよう、その体にしかと教え込んでやるが良いぞ!
そうとも、そうとも、心の奥深き秘密の場所にまで、恐れと苦痛とをしかと刻み込んでやるのであろう!」
「ぐああああーーーー!!!」
さらなる激痛は新たな槍傷ではなく、その蒼い魔槍が拗れて俺の傷口が裂けたことによるものだった。
隠世での痛覚は、現世より鈍感だ。
それでもこれだ。現世なら気絶してるだろう。
あまりの激痛に、頼みの降魔槍を取り落としてしまった。
俺はすかさず槍の宝具化を解いた。
何か有効な術式を唱えようと思うが、思いつかない。
「止めよ、王アスモデウスよ」
アスモデウスと呼ばれた超常の者は、蒼白い肌の太った醜い裸身を晒す悪魔だった。
鬼神のような憤怒相の巨大な頭に王冠を載せ、両肩には肉腫のような盛り上がりがあって、それぞれ猫と羊の顔を形作っている。
下半身は竜のようで、蒼槍はその背後から伸びているようだ。
尾が分岐しているのか、それとも背から生えているのかまでは分からない。
そこまでを一瞥で見て取った。
俺は蜻蛉切を再び手に現す。
そして目の前の蒼槍に振り下ろした。
ガツン! と強い反動。
アスモデウスの槍を傷つけることはできたが、傷は浅い上に、傷つけた先から回復していく。
「無駄な足掻きは美しくないであろう? 相馬吾朗くん」
「クソ! 南無三朱沙門飛行上人咒!」
俺は風魔法をアスモデウスにぶつけた。
同時にブーツの裏で爆発を起こし、反動で槍から抜けようとした。




