6. 魔法の扉
― 前回までのあらすじ ―
深夜歌舞伎町、緊急呼び出しに応じて行ってみれば、
浮浪者の知り合いテルオさんがチンピラにボコられていた
挑発して自分を追いかけさせる、職業無職相馬吾朗
知り合いのバー、ハングリーママに処理を任せようとするも留守
仕方なく、階段を上へと昇る。
歌舞伎町も北の端、大久保にもほど近いこの雑居ビルは、スナックあり、占いの館あり、探偵事務所に怪しい会計事務所、正体不明の交易公社ありの、何でもアリアリの混沌の館だ。
五階建てなのにエレベーターも無いというのは、かなり古い昭和の建物なのだろう。
俺はその最上階である五階を通り越して、ロッカーや椅子などが雑然と置かれた、屋上に出るスペースに立っていた。
屋上への扉は残念ながら開かない。
もし鍵がかかっていなければ、他の手もあったかもしれないが、是非も無しである。
こうなったら俺の不運属性に、奴らにもとことん付き合ってもらうしかあるまい。
状況は、高さのアドバンテージはあるものの、完全に追い詰められた形だ。
ふつうなら万事休す。
俺は素早くコートの内ポケットに手を入れた。
取り出したるは拳銃――なわけナイ、これは太字の油性ペンだ。
それで手早く壁に、大きな長方形を描いた。
そこに二人がやって来る。
インクには磁性体を混ぜ込んだ特殊な顔料が含まれているが、見た目ではそれとは分からない。
ただの黒い線が引かれている。
「ナンや、どんづまりちゃうかー」
「バカだろテメー、ナニ壁にラクガキってんだ?」
黒シャツが鼻で嗤う。
「ラクガキだって? いや、これは扉だぜ?」
「ああぁん?」
壁に描かれた線が、たまさか青く光る。
俺の描いたちょっと味わいあるヘナヘナした黒い線は消え、より細いまっすぐなラインが表れる。
そうして俺が壁を押すと、ほんとうの扉のように向こう側に開いた。
音もなく、ゆらりと。
扉の向こうには、ただ暗い闇が広がっていた。
あちらから吹き込む風が、俺のボサボサの髪の毛を手荒く撫でていった。
「はっ、こんなとこでマジックかよ……」
黒シャツがゆっくりと階段を登り、距離を詰めながら吐き捨てるように言う。
手品か……うむ、ダジャレにはなってるな。
まあ、そういう風に解釈するのがせいぜいだろう。
ちなみにマジックは油性ペンを指す普通名詞ではなく、登録商標名なのである。
「そんなコケオドシが通じる思うてんのか、コンクソヤロガ?」
クズ二男は足を止めたままで、口だけ番長だ。
疲れたんで余裕の一休みか。
それともこの超常現象を目の当たりにして、ちょっとは警戒しているのかも知れない。
「さてと、最後に警告だけはしといてやる。追ってくるな。後悔するぞ」
もちろん釣りだけどな。
「グダグダってんじゃねえぞ、クソがゴルァ!」
「カクゴせえや! コーカイすんのはテメエだボケェ!」
俺は素早く扉の向こうに踏み込んだ。
あとは連中が、自らを差し出すかどうかの問題だ。
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ここまでお読みいただき、有難うございます。
これにて1章の終了、いよいよ物語は次のステージへと進みます。
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