3. 竜のブレス
すると竜人の翼が素早く反応し、体の盾のようにして身を守った。
だが、俺の降魔蜻蛉切は対龍特性を備えた屠龍槍だ。
やすやすと、二重の翼の防御を突き破った。
同時に横から鞭のようにしなる尾が飛んできた。
その尾に野槌が素早く飛びついて噛み付くが、弾き飛ばされる。さらに鉤爪!
しかし、こちらとて同じ手は食わない。
瞬時にブーツの裏で爆発を起こし、飛び退いた。
尾と鉤爪は、目の前で空振りする。
いざというときにこそ、こうした高級装備を使ったテクが役に立つ。
後方に飛んで正解だった。
前に出ていたら、矛先が喉を突く前に鉤爪か尾に捕らわれていたろう。
だが、時間を稼いだ竜人の顎が大きく開く。
背後では夜刀神が背中に切りつけているが、ダメージを受けながら余裕の放置だ。
ギザギザの牙の奥には、アストラル光が渦巻いている。
「ブレス! みんな避けろ!」
「ギオオオオオオオオオ!!!」
耳を聾する竜人の咆哮と共に、透明なオレンジ色の液状ブレスが襲いかかった!
野槌が体をしならせ、弾けるようにして避ける。
小天狗はとっさに上空へと飛び去る。
跳んで空中を後退する俺を、追うようにしてブレスが迫る。
グイと俺の体が左に引っ張られた。
ありがたい、土蜘蛛の糸だ。
土蜘蛛は俺と入れ替わるようにすれ違い、ブレスを飛び越え竜人悪魔に肉薄していく。
それでもオレンジの飛沫が幾つかかかっていた。
セラミック装甲は無事だが、鎧の金属部分が煙を上げて腐食する。
土蜘蛛の糸にもかかり、ぷつりと切れるが、そのまま慣性で俺は左に逃れ、ブレスの奔流からは逃れることはできた。
しかしブーツにいくつか穴が空けられ、強酸性の液体が侵入。
激痛が、皮膚に達した飛沫の存在を伝えてくる。
俺は隣のビルの天井に着地して、焼けるような足の痛みに耐える。
さっきヤドゥルがいた階段全体に、液がぶちまけられており、鉄の手すりがどろどろに溶けているが、石で出来た階段には影響がないようだ。
(主さま、おいたわしや)
野槌が跳ねてやってきて、回復術式で俺の足を治癒するが、液が残っているのですぐに焼けただれる。
仕方なくブーツを脱ぐと、たちまち清らかな水流が足とブーツを洗い清めた。
「やっかいな毒液じゃのう」
艶っぽい美女が、眉をひそめて立っていた。
「助かる、セオ姫さま」
国津の美しき女神瀬織津姫だ。
領巾と呼ばれるタスキ状の長い紐のひとつから、清めの水が吹き出して、俺の足を浄化したのだ。
野槌が改めてかけてくれる回復術式の効果を感じながら、ブーツを履きなおす。
「宿得がおりましたのに」
遅れてやってきたヤドゥルが、自分の役目を取られて悔しがる。
ちゃんとブレスを避けくれていたようで、ホッとする。
「グハッ!」
「ぬォ!」
と、上から声がして、半蛇体の武者と、蜘蛛男が夜空に舞う。
夜刀神と土蜘蛛が、弾き飛ばされたようだ。
土蜘蛛が近接戦で吹き飛ばされるとは!
それを追って迫る青い影。
竜人はするすると首を伸ばし、夜刀神に食らいつこうとしていた!




