2. シン集結
一対一では、躱して奥に行くのも厳しそうだ。
配下のシンが牽制してくれれば、それも可能だろう。
シンたちが集まるまで、時間を稼ぎたい。
「お前はどこから来た? 答えろ!」
「……………………」
言葉に強制力の咒を載せたが、竜人は無視して身構えている。
見た目もレベルの高そうな超常の者だし、やはり効果はないようだ。
向こうもこちらの蜻蛉切の赤い輝きが危険なのを理解して、すぐには仕掛けてこないようだ。
俺に切られた尾の傷が、けっこう痛かったのかもしれない。
対龍戦に特化した属性を持つ魔槍。いわゆる屠龍――ドラゴンスレイヤーってやつだ。
蜻蛉切りだから、銘はドラゴンフライ・スレイヤーだけどな。
じりじりと間合いを詰めると、竜人は黒い皮翼を広げ威嚇してくる。
こちらが怯んだ動きをすれば、そこに突き入るつもりだろうが、こっちもレッドドラゴンと相討ちした歴戦の勇士だ。
簡単に隙は見せてはやらない。
と、敵が動いた。
どうやら尾の傷が塞がるのを待っていたらしい。
そんなに痛かったのか?
予備動作無しで、右から長い尾の影、左から鉤爪が猛烈な速さで迫る。
両方は槍で防げない。
槍を逆に振り下ろし、石突で床を叩いてハイジャンプ。
横殴りにくる尾と爪を避けて、そのまま空中で一回転。
回る勢いを乗せて、竜人の左肩口に穂先を振り下ろした。
屠龍の槍は硬質な竜属の鱗も貫き、血飛沫が上がる。
しかし、深手となる前に残る右の竜爪に勢いよく弾き飛ばされた。
宙をキリキリ舞う俺に、戻ってきた尾が襲いかかる。
その軌道に合わせて槍を振るう。
刃が食い込むも、角度が浅くて断ち切れない。
血潮を吹きながら尾が背後に逃れる。
ヤバいのは目の端に入る左爪だ!
空中で体をひねるが避けきれない!
だが、爪は途中でピタリと止まった!
鱗に覆われた竜の手には、強靭な蜘蛛の糸が巻き付いていた。
土蜘蛛が間に合った。
視界に入らないところから、糸を放ってきているのだ。
俺は現世とは違ってしっかり着地。
竜人は左手の糸を右の爪で断ち切っている。
その隙に、左足に一撃突きを入れさせてもらう。
屠龍の穂先は鱗を突き破り、血花を咲かせる。
ほかのシンたちも駆けつけてきた。
小柄な翼持つ影が竜人の足の間や、背後をちょこまかと飛び回り、小太刀で一撃を与えながら牽制する。
「くわかかかかか!! 覚悟せよだガアァ!」
小天狗は非常に俊敏に飛び回り、剣術も達者でいつも敵を撹乱してくれるのだ。
ただ、竜人にはほとんどダメージを与えられないようだが。
下半身が巨大な蛇体、上半身が鎧を着込んだ武人、夜刀神が音もなく敵の背後に現れ、得物の黒太刀を浴びせる。
しかし、竜人は後ろにも目があるように、素早く反応した。
その皮翼が動いて、太刀筋を受け流したのだ。
夜刀神に竜人の尾が襲いかかるが、刀がそれを迎え撃つ。
敵の攻撃を引き付けてくれれば充分だ。
太くて短い蛇が俺の横にひょこり現れて待機。
(主さま、ご無事?)
「ああ、ダイジョブだよ」
野槌は回復術式を得意とするが、前動作無しでジャンプして毒牙で攻撃するという、見た目からは推し量れない敏捷さも持っている。
続々とシンが集結する中、竜人はただ防戦していたわけではなかった。
攻撃をいなしつつ、首の一部を膨らませ何か力を籠めている。
強力なブレス攻撃でもするつもりだろうが、そうはさせない。
低い構えから鋭く槍を突き出した。




