1. 襲撃!!
歌舞伎城クライマックス、第6章です。
シトたちと、巨大ボスキャラとの戦いをお楽しみください。
不夜城の悪趣味な看板の照明が、俺の黒瞳を七色に染める。
手すりもなく広いバルコニーは、階下の部屋の屋根になっている。
その先の階段の一番下には、小さな水干姿が佇んでいた。
周囲にたくさんのスプライトをまとわりつかせ、何か喋りかけているようだ。
奴ら虫人に言葉が通じるのだろうか?
「待たせたなヤドゥル」
こちらを見上げる表情は、なぜかすごく不安げだ。
その小さな唇は、「遅かったですの」と新たな小言を紡ぐのではなく、鋭い警告を発した。
「主さま!!」
ヤドゥルのそばから、緑光がさっと飛び散ると同時に、笹の葉が飛んでくる。
俺はただならぬ気配を感じ取った。
背後から強烈な殺気!
瞬時、装備と魔槍の朱槍を右手に顕す。
同時に振り向けば、眼前に迫る巨顔があった!
鋭い牙が、ずらりと並んだ大きな顎だ!
グワッと吐き出される刺激臭のある息に乗って、瘴気をまとった殺意が押し寄せる。
心の弱い者なら、これを浴びただけでも卒倒していただろう。
とっさに身を伏せると、頭の上でバクンと顎が閉じる音が響く。
危うく頭を持ってかれるところだった。
そこにヤドゥルの魔法障壁が展開されるが、ちょっと遅かった。
俺もすかさず槍を突き上げるも浅い。それでもガリガリと下顎に傷を付けながら、頭が退いていた。
姿勢を戻し、追撃の槍を繰り出す間もなく、脚を何かに巻きつかれた。
鞭のようでいてそれより長くしなやかな――触手か尾のようだ。
そのまま高々と宙に持ち上げられると、頭が逆さになる。
そこにヒュンと空気を唸らせて、鋭い鉤爪が迫った。避けようがない!
ガッと嫌な音を立てて、鋭い衝撃が来る。
腹の蛇腹装甲が砕け散った。
爪は硬い宝具をも打ち破り、肉をザックリと削いでいった。
鮮血がアストラル灯火の夜空にきらめく。
「うおおおおおおお―――!」
苦痛に呻きながら朱に燃える槍を回転させ、脚に絡みつくものをなで斬りにすると、敵もたまらず戒めを解いた。
階段に頭から落下する寸前、とっさの受け身で背中から落ちて数段転げ落る。
どうにか踏みとどまり、即座に反撃しようとダッシュで駆け上がった。
「お待ちくださいですん!」
タイミング良くヤドゥルの持つ笹の葉の一枚が飛んできて緑光を放ち砕け散ると、俺の傷を瞬時に癒やしていった。
流血する腹部の深手がほぼ修復される。
「みんな、来るんだ!」
振り返らずにシンたちに命じてから、階段を登りきる。
その先に待ち構えていたのは、長い尾を持つ竜頭人躯の超常の者だった。
背には棘のある翼、全身がギラつく緑青の鱗に覆われており、首の先から長い尾の先まで入れたら七メートルはあろうかという巨体だ。
こいつ、何処から現れたんだ?
この一帯はセオ姫さまとノヅチのセンサーで探知されているはず。
まさか二人がやられてしまったというのか?
歌舞伎城の城壁と防御システムは、簡単には外からの超常の者を寄せ付けない。
それにこの中立地帯では、大戦状態ですら、使徒同士の戦いは禁じられている。
敵が私闘の禁を破ってでも攻撃してきたとなると、相当の覚悟があるに違いない。
それともさっきの悪魔の影が戻ってきて、実体化したとでもいうのか?
だが一度は撃退された超常の者が、すぐさま実体化するなんて、絶対にあり得ないことだ。
「アヤー!! ダイジョブかー!?」
だめだ、返事がない。
急いでこいつの脇を突破して、アヤの安否を確かめなくては!




