表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/244

20. ふたりの秘密

 何が気に入ったのか、しっかり俺の舌の上に張り付いたままだ。


「どうやったら戻るんだ?」


「ごめんなさい、分からないの。さっきは、直感的にこうしたら吾朗さんに鍵を渡せるんだって閃いたの」


「閃きだったのかよ」

「いっそこのまま、付き合うことにするとか?」


「それはダメだ」

「私が……嫌いなの?」


 そんな寂しそうな顔をするな。


「そんなことない、お前のことは大好きさ」

「……やっぱり那美さん?」

「しょ、しょうがないだろ……」


「じゃ、私は二番目でもいい。愛人枠かな?」

「ちょっと待て! 愛人ってお前いくつだよ!」


「十七歳でも愛人にはなれるよ?」

「アヤ……うーん……それに君の事務所恋愛禁止だろ?」


 ちょっと前まで地下アイドルだった彼女は、最近大手芸能事務所に所属したばかりだ。めきめき知名度も上がっている。


「秘密にすれば、問題ないよ? 現世では、超そっけなくしたげる」


 だめだ、女は魔性の生き物だ。じっさい悪魔憑きだし。

 俺は落ち着こうと、喫緊の課題をもちだすことにした。


「でも困ったな、鍵が無いと悪魔が暴走しやすくなるのなら、何か対処法がないとな……」


「その時はまた、吾朗さんが助けてくれるんでしょ?」

「いや、いつも一緒に居られるわけないだろ?」


「じゃ、同棲する?」

「いや、だからーー!」


 こうなりゃとことん堕ちていくしかないのか?

 でもさすがに同棲はまずいだろう。売り出し中のアイドルが、定職もないダメンズと一緒に棲んでるなんてバレたら、一発で終わりだ。


「現世では、今がアヤにとって大事なときだろ? それはダメだ」

「父に逆らって家を出ても……今の吾朗さんじゃあたしを養うのって……」

「ああ、ぜってー無理だ」


「それに学校だってあるんだろ?」

「じゃあ、今やっちゃうおうか!」

「え?」


 このお嬢さん何を言い出す?


「匣もあるよ? 吾朗さんなら大悪魔に勝てるかも。今弱ってるみたいだし」

「あのなあ……」


 鍵を使って匣を開けて七体の大悪魔どもを封印するはずだが……勝てるってどういうことだ?

 やっぱ戦わないと封印できないのか?


「じゃあ、まずは匣を見せてくれ」

「えっと……」


 またしても赤くなって恥ずかしがるアヤ。

 もしかして、やっぱり匣も体のどこかにあるのか?

 それもヤバい場所に??


「私にも分からないの」

「分からない?」

「体のどこかにあるんだけど、どこにあるか……知らない」


 何だそりゃー!

 それを探し当てるために、身体中を舌で……なのか??


「イヤイヤイヤ……それは今はまずい。今じゃなくともかなりまずい」

「……吾朗、なら、いいんだよ」


「待て、落ち着いて考えよう。とにかく今はダメだ。それに悪魔に勝てるかもって言ってたよな?」

「うん」


「てことは、匣を開けようとすると、大悪魔どもがやってくるってことか?」

「大悪魔たちは鍵を使おうとすると、きっとそれに抵抗して出てくる。一体ずつ倒して、匣に入れるといいよ」


「ここで派手に戦うのはまずいだろ。場所を変えよう」

「分かった……」


「悪魔族の渋谷か……いや、ダメだ。国津神の支配する吉祥寺がいいな」

「連絡して」


「そのときは、アヤも悪魔と戦えるんだろ? さっきので、しばらくは奴らも出てこられないだろうから、その間に少しでもダンジョンでレベルを上げるんだ」

「そんな時間、ないと思うよ」


「それでもやるしかないだろ?」

「……できる……カナ……」


 いつもは自信に満ちあふれた瞳の輝きが、急に失われる。

 自らも悪魔とバトルしようと考えた途端これだ。


 教授に強く刷り込まれた暗示のせいだろうか。それとも悪魔との精神的な戦いで、相当心がすり減っているのかも知れない。


 彼女の本来の力なら、もっと頑健に抗えるはずだ。


「まず弱気が一番の敵だな。もっと自分を信じろ。お前なら出来る、ダイジョブだ」

「でも……」


「俺を信じてるか?」

「うん」

「じゃあ、俺が信じるお前を信じろ。不安の毒に付け入れさせるな」


 俺はお気に入りのアニメのセリフを交えて、言葉に力を載せる。

 髪飾りの上からクシャッと髪の毛を撫でると、アヤは年相応の少女の表情に戻り、こくんと小さく頷いた。


「それじゃ戻ろう。匣を探す場所は探しておく」

「うん、でもその前に現世で会えない?」


「え? できるのか?」

「ダイジョブ……なんとか抜け出すから……TReE(ツリー)で連絡する」


「そか、それまでしっかりな」

「ありがとう……吾朗……さん」


 俺は先に廊下の角を曲って、扉も何もない建物の外に先に出た。

 彼女は後から少し間を置いて移動する。


 いや、奥の暗闇から別のところに出ていくのかも知れない。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


面白かったら「小説家になろう」にログイン後、ブックマークへの追加や、お気に入り登録、★での評価をどうぞよろしくお願いいたします。


本作品への評価に直結し、未来へとつながります。


SNSでのシェアなども、とても有り難いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ