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17. 救いの声

 その時だ、奇跡の声が俺の背に投げかけられた。

 俺を呼ぶ少女のあどけない声だ。


(あるじ)さまぁーーーー!!」


  いや、少女とするにもまだ幼い、幼女といって差し支えない舌足らずの声だ。

 声だけでもガチで可愛い。幼女趣味ない俺でも、ふつうにそう思う。

 それが独特な言い回しで、苦情を申し立てるのだった。


「まったくもって、いつまでかかるですの?」


 目付役として、隠世ではいつも俺の傍らに侍る人形娘(オートマタ)だ。

 その役にかこつけて、何かとプライベートにまで深く干渉してくる面倒な奴なのだが、いつでもどこでも絶妙なタイミングで助けてくれる、有り難い相棒でもある。


 今回の割り込み方など、まさにそれ。


「ヤドゥル! い、今行くから、ちょっと待て!」

「何か怪しいのですん」


声が近づいてくる。

 こんな二人が密着している現場を見られたら、確実に俺は終わる。終わってしまう!

 俺はアヤの柔らかな肩に手をやり、そっと離そうとした。


「ヤドゥル、そこでストッープ!」


「ますます怪しいのですん。大事な秘密会談であらばこそ、宿得もご一緒にと申しあげましたのにぃー」


 黒の烏羽から立ち昇る、火の粉を散らすほどに火照ったアストラルが一際揺らめくと、すうっと離れていく。


 ようやく彼女も諦めてくれたのだろう。

 ほっと胸を撫で下ろすと同時に、一抹の寂しさも感じる。


 それだけ誘惑には、抗い難いものがあったのだ。

 俺の心臓は、まだ強く脈打っていた。


 しかしその点に関して、よほど彼女のコントロールが、俺よりしっかりしているようだ。

 緋色のアストラルの色も、さっと紫紺に落ち着いていく。俺もなんとか、ふつうよりテンション高いくらいのオレンジ色に抑えるのがやっとだ。


 アヤの横をすり抜け、入り口の方に踏み出したところで、声の主が現れた。


 白の水干に浅葱の袴の幼女が、心配そうにこちらを見上げる。

 蓬髪の下の碧玉の瞳、あどけない表情が可愛らしい。手には青々とした笹を一振り下げている。


「主さま!」


 ぱっとその表情が明るくなる。


「ヤドゥル、言ったろ。一対一で話し合うって約束は破れないんだ。国津神族は約束を守らないなんて、思われたくないだろ?」


「なにやら不安定値が昂じてますの」


 ヤドゥルの危機察知能力は高い。今回も見事だと思う。

 しかし、もうヤバい状況は去ったと言っていい。


「ダイジョブだよ。もう終わったからすぐ行く」

「されど〜」


「アトハ次ニ会ウ日時ヲ決メルダケ。モウ終ワル」


 いつの間に黒のローブをまとい、仮面を被った悪魔の使徒が、声音を変えて告げる。


「な? わかったろ?」

「宿得も残りますん」


「だめだ」

「されど………」


「下がるんだ」

「……危うくなったら、すぐお呼びくださいですの」

「ああ、分かったよ。さっきの階段の下で待っていてくれ」


 ヤドゥルを連れて出入口まで行き、そのちっさな背を見送ってから戻ってみると、ローブ姿のアヤは床にしゃがみこんでいた。

 さすがに、どっと疲れたか。


「ダイジョブか? 最後に鍵と匣について、もう少し詳しく聞かせてほしいんだけど?」


 しかし返事がない。


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