12. 匣と鍵
「時間がない?」
「うん、私が無くなるのが先か、七大悪魔を追い出すのが先か」
「そうか……けっこう切羽詰まってるんだな」
「それと、もう一つ方法があるんだけど……」
「悪魔を追い出す方法?」
「ううん、これは悪魔を完全に支配する方法」
それは追い出すよりより有効だ。
祓われた悪魔は、また戻ってくることも考え、その後も守る備えを怠れない。
だが支配してしまえば、害どころか有益に使え、シンのように強力な戦力となるだろう。
いや、ふつうのシン以上なのは確実だ。
「それができるなら、その方がいい。どうやるんだ?」
「超すごい匣があるの」
「お、応……」
超すごい匣って……アヤ、語彙。
でもまあ、オカルト知識豊富だけど、実は現役女子高生だからな。
「その匣に、ぜんぶの悪魔を封じ込める力があるの…ね」
封印の匣とか云わないんだ。
「ふむ、それは確かに凄いな。その匣さえあれば、君は悪魔から解放され、逆に支配する立場に立てるってことだよな」
「うん」
アヤはしっかりと頷いた。
「分かった、それを探し出せばいいわけだ」
「え? そうなる……カナ? 私もどこにあるか……た、たしかに、詳しくは……分からないから……」
そこで何で照れるんだアヤ。
「それだけじゃなくて……」
「分かった、鍵だろ? その匣は宝箱みたいなもんだな」
「すごい、よく分かったね」
すごくない。ただのゲーム脳だ。
むしろアホだろう。正解で良かったが。
「その鍵も手に入れればいいわけだな、そいつも俺に任せてくれ」
悪くない、新たなる冒険が始まる予感がしやがる。
美少女を七大悪魔から救うための苦難の数々。ワクワクが止まらないってやつか。
いや、そんな甘いもんじゃないって分かってるからこそ、今はワクワクさせてくれ。
「え? いいの? でも、吾朗さんになら……任せても…いいかな……」
そしてなぜまた照れる?
赤くなって、モジモジし始めるアヤ。
それはそれでグッとくるわけなんだが、なんか誤解してないか?
いや、むしろ俺に誤解があるのか?
聞きそびれている情報がないだろうか。
だがまあ、細かいことは後でいい。実は大きな問題はその先にある。
「ところで……七大悪魔を支配できれば、アヤはそれで助かるとは思うけど、その後俺たちと君らが敵対すると、悪魔族圧勝にならないか?」
「そう、七大悪魔の支配者には絶対の力がもたらされるわ。その匣と鍵の持ち主には吾朗さんがなればいい」
「マジでか? それでいいのか?」
「構わないよ。そして悪魔族と国津神族は同盟するの」
「おい、いきなりかよ。そこで同盟までくるのか?!」
「ダメ?」
「いや………」
長年悪魔族は、天津神国津神の日本の神族同盟と争ってきた。ときには天使族も味方に引き入れ、悪魔族と戦うこともあった。
逆に俺たちが天使に利用されただけかも知れないが……まあ、そこは置いとこう。
それでも強大な悪魔族にじわじわと押され続け、今では天使族との共闘なしでは、国津も天津も存亡の危機に瀕するほどだ。
反攻作戦には天使族に加えて、ほかの神族の協力なしではとてもじゃないが太刀打ちできない。
それだけ悪魔族は絶対的脅威であり、そして長年の宿敵なのだ。




