9. 教授の異常な愛情
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
「うん……」
しばし目を伏せ、沈思する美少女悪魔使徒を、静かに愛でるタイムだ。
「どこから話したらいいカナ……そう……まず私のことを話せばいい……私って、けっこうイケてる方でしょ?」
「うんうん、かなり可愛いぞ、アヤ」
俺は二度頷いた。
「でもね、これって見かけだけなんだ。本当はもう中身、ぐっちゃぐちゃだよ」
「え?」
余りに唐突で意外な言葉。俺はまともに返せない。
「フツー驚くよね。体だけじゃなくて、心までけっこう限界」
「どうして……」
「私の父のこと、知ってるよね? プロフェッサー澁澤耶呼武がどんなヤツか」
「実は中野でも直接戦ってないから、会ってはいないけどね」
「あ、そうなんだ。てっきり手合わせしたのかと思ってた」
「そうだな、手合わせはしたってことになるのかな。でもプロフェッサーの召喚した悪魔と戦って倒しただけで、本人の姿は見てないんだ。まあ、ネットで写真は見たことあるけどね」
「そっか、直接会ってると、話は早かったんだけど、とにかく異常」
「異常っていってもいろいろあるよ」
「んー、メガロマニアとか、サディストとか、パラノイアとか、サイコパスとか……カナ?」
「どれなの?」
「ぜんぶ!」
「ぜんぶ??」
「そう、ぜんぶ合わせた……超変態学者」
「よく君が異常にならなかったね」
「え? 私もけっこう、異常だよ?」
「そ、そうなの? どんな風に?」
「それは、……秘密」
「お、応……」
そう言われると気になる。こんな美少女のどこが異常人格なのだろうか?
父がサドならそれに合わせてマゾとかってか!?
イヤイヤイヤ……ダメだ! 脳裏にあんなことやこんなことの映像が速効で映し出され、ちょっとドキマギする。だがしかし、即行消す。
今の、俺のアストラルの色に出てないよな?
「で…ね、その異常者に子供のころから、イロイロいじられてきたの」
「え?」
ショッキングな言葉に、消しきれなかったエロ映像は一瞬で霧散。
自分で想像してた行為の罪悪感を上書きし、それが現実だと思うと、勝手なもんだが怒りがこみ上げてきた。
「そんな……自分の娘を……許せない…」
「え? あ、ちがうの!! ちがうんだよ! 性的な意味じゃないから…ね!」
「へ?」
「心配してくれて、ありがとう。それに怒ってくれて嬉しいよ」
「どういう……」
「私の体は、魔術の実験の被験体にされ続けたの」
「!!」
言葉が出なかった。性的虐待じゃなくて、良かったと思っていいのか?
うん、多分いいんだろうけど、じっさい俺には見当もつかない。
実の娘を、いたいけな少女を、いったいどんな悍ましい実験に供したというのか。マッド・サイエンティストの実験みたいなもんか?
「父は西洋の高等魔術師だから、基本召喚術…ね。だから私の体を依代にして、さまざまな悪魔を召喚して憑依させた」
「それは現世でってこと?」
「そう、現世で何度も何度も……その結果隠世に来られるゲートを開くことが、できるようになった」
「ちょっと待ってくれ。君たち親子は神に――この場合悪魔か――それに選ばれて使徒になったんじゃないのか?」
「うん、逆ね。自ら悪魔を選んで使徒になったの」
「悪魔族って、みんなそうなのか?」
「ちがうみたい。悪魔に魅入られてなるのが一般的…ね。うちの家系だけ特殊カナ?
あ、そういえば、欧米の魔術師にはいるみたいだけど……。要するに魔術師たちは、それができるみたいね」




