7. 荒野の悪魔と闇の女帝
「ところで、悪魔絡みでちょっと聞きたいことがあるんだが、言いにくいことなら答えなくてもいい」
「言ってみて?」
「さっき俺の意識乗っ取った悪魔なんだけど、レギオンどもを引き連れて西に向かってたんだが、何か知らないか? 他の悪魔たちも同じようにレギオンを集めていたらしいんだ」
「どんな悪魔?」
「細くて、黒い角があって、華奢な女みたいな体つきだ。色白で赤い巻き毛に、大きな赤い邪眼。羊飼いのような長い杖を持っていたな」
「その子はバラム……カナ」
「バラム?」
「ソロモン王に封じられた、七十二柱の魔神のひとつ…ね」
「魔神?」
「魔神っていうのは、英語だとデーモン、発音はディームンだけど。悪魔はデビルね。発音はディーヴル」
「どう違うの?」
「んん~……おーざっぱに言うと、デーモンは、異教の神々が零落して、悪魔化した存在……カナ?」
「異教ってのは、キリスト教以外ってことだろ? 日本の神祇も入るわけ?」
「ええっと……キリスト教が日本に伝来したとき、宣教師はそう言ってたんだ。お寺の仏様も神社の神様も、あれはデモニオスだって…ね」
「スペイン語だと魔神はデモニオスか。アヤは物知りだな!」
「まあね、パパの英才教育のお陰……。でも、悪魔族が扱う魔神には、日本の神々はもちろん、入らないよ」
「まだ零落してないしな」
「ふつうデーモンって言われるのは、フェニキアやエジプトやペルシャの神々が元になってる感じ。不思議とギリシア・ローマの神々は、魔神には入らない。ヘカテーは別だけど」
「じゃあデビルは堕天使か」
「ご明察だよ! もと天使だったのが神に反逆して、敗れて、落とされた者ども」
「君ら悪魔族は、堕天使系ってこと?」
「ううん、デーモンもデビルもごちゃまぜ。堕天使といわれる悪魔の中にも、もともとは中東のユダヤ教以外の神々が、含まれてるらしいの」
「なるほどな……で、バラムはどんな魔神なんだ?」
「たしか牡牛系……召喚者を賢くして、過去も未来も見せることができる、悪魔じゃなかったカナ」
「牡牛? なんで女の子みたいだったんだ?」
「さぁ、なんでカナ? 悪魔はどんな姿にも化身できるんだけど…ね。ずっとその格好をしていると、性格までそうなっちゃうんだけどな」
「召喚者の趣味だったり?」
「あ、意外とそうカモ。うちの叔母、カワイイ女の子、好きだし」
「え? 叔母さんの使い魔なの?」
「持ち主が変わってなければ…ね」
「叔母さんって澁澤百合子さんだったよな。あの闇の女帝かぁ……」
現世でも、驚くべき美魔女として、超話題になった熟年女性だ。
そしてバビロン占星術師としてお茶の間でも知られている。
「あなたの運勢はバビローン! 大・金・星でっす!」
なんて、オチャラケたことをやっているが、実は芸能界や政界に強いパイプを持ち、裏でさまざまな影響力を行使しているという女傑である。
闇の女帝の名は、伊達ではないのだ。
アヤが芸能界で表デビューしたのも、親戚である彼女の力を利用しているらしい。
「うん、だから目的地は、たぶん……初台だと思う」
「初台? オペラシティの隠世かい?」
「歌舞伎城を失ったから、歌劇の塔から、新都心の天使族に、攻撃を仕掛けようとしてるみたい」
「――だとすると、何が起きても不思議じゃないな」
「私としては、ナンかしでかして欲しいくらい……なんだけど」
「そうなったら教授でも抑えきれないしな」
「そういうこと♪」




