4. 殺しにくる言葉
日々平穏たる表の世界で生きる俺自身のために、命懸けで走らねば。
それに、捕まってボコられたら約束の時間にぜってー間に合わないしな。
風と化した俺の背中に、すっげえキラーワードが飛んできた。
「ゴ イ ガ プ ア ッ てなんだゴルァ!」
「プハッ!」
そりゃ吹くだろ。
クズ男のくせに、けっこう笑かしてくれるじゃないか。
そして予想通り、俺とテルオさんに一人ずつ付くという、上級アルゴリズムは(クズ脳×クズ脳)には無かった。
うむ、正解である。クズ同士いくら乗算したところで、クズ味しか増えない。
俺は「ゴイガプア――」を反芻してクスクス笑いながら、歌舞伎町の路面をフルパワーで蹴って駆け抜ける。
腕っぷしは弱いが、走りはまあ、それなりにフツーだと思いたい。
イケそうだ。たぶん今のところ順調。
クズメンどもはちゃんと追っかけてくれてる上に、酔っぱらいにぶつかって怒鳴り散らし、タイムロスしている。
これは余裕だな。
酔っぱらいをどついてるところを、追いフラッシュ撮影でさらに煽ってから、スマホ越しに問いかける。
「ヤドゥル、こいつらって、使徒系でいいのか?」
舌足らずの少女の声が返ってきた。
「分からないですの」
「映像送ったろ?」
「既知の使徒ではないのですん」
「じゃあ、別件じゃん?」
「新人の使徒かも知れないですし、使徒の誰かに使役されているかもですの」
「かもじゃわからん」
「絵に映らなかったのですん。直に見てみないとだめですの」
「しゃあねえな……んまあー、違ってても構わないか」
「なにが構わないのですん?」
「そっちに送るってこと――いや、まだワンチャンあるんだった」
「犬さんをどうしますの?」
「いや、何でもない、気にするなヤドゥル」
「気になりますん」
「気にするな」
一方的に言い放ち、通話を終わらせる。
ヤドゥルは向こうで、犬さんが何なのか、気になってしょうがなくなってるに違いない。
クズ1男 AI生成画像に加筆
命の危険さえともなう厄介事に巻き込んだ代償としては、ごくごく軽いもんだ。
「ッメエターデズムトッテンカ!!」
「ヌッコロッテーッソヤロガ!!」
俺の大切なフォロワーさんたちは、すっかり頭に血が昇っていらっしゃる。
口角に泡を飛ばし、なにごとか魔界の言語を喚きながら追ってくる。
俺は歌舞伎町に隣接する、ホテル街へと滑り込んだ。
振り返ると、二体ともしっかりロックオンしてくれている。