3. シン召喚
オートマタであるがゆえに、何らかの縛りがあるのかも知れない。
今みたいに、ルールを破ってはならないとか、嘘を吐いてはならないとかだ。
「ヤドゥルにその辺を聞いても、また『禁則事項ですん』とか言うんだろうな」
独言して無人の建物の中に入ると、配下のシンたちを召喚した。
見つかったら監獄行きか、鞭打ちでも食らって追放とかだろうか。
まずは先程の瀬織津姫と土蜘蛛だ。
「ほお、吾が君、ここは随分と寂しげな歓楽街じゃのう」
「ここは歓楽街じゃないよセオ姫さま。そこから離れた廃墟地帯だ」
「ふん、詰まらぬわ。これでは先の瓦礫町と大差ないではないかえ」
「主様、吾らを召喚されたということは、腹をくくられたのでござるな?」
「そうだ、よろしく頼むよ」
「心得た」
「仕方ないのう」
残念ながら山童はお休みで、代わりに小天狗を召喚する。
いわゆる烏天狗というやつで、嘴と翼を持つ鳥人だ。山伏の衣装を着込んでいる。
「かぁ~主殿、わしゃあ何する? 何するかぁ? 何するが良いのかぁ? 」
「小天狗、静かに! あとで指示するから待機!」
「がぁ!」
こいつは煩いので、せっかく飛べるのに偵察に向かない。なので、さっきは呼ばなかった。
さらに強力な国津神速玉男命を召喚する。
日本の古い神さまなのに、その姿はなぜか近未来的サイボーグのような強化スーツで全身を鎧っている。
紅に近い赤銅色の装甲が頼もしい。
見た目通り格闘戦に秀でた武闘派だ。
「三位殿、この速玉男によろずお任せあれ!」
喋り方もヒーローもののお兄さん的に明るい。
陰キャの俺としてはちょっと引く。
さらにもう二柱、下半身が巨大な蛇体、上半身に黒の鎧を装備した夜刀神と、太くて短いイモムシにも似た蛇の姿の野槌だ。
夜刀神は社を持たない地主神として知られている。
古代日本の蛇信仰の名残を留めている姿だ。
隠形で近寄り野太刀を振るう、頼もしい忍者のような戦士だ。
「フッ………」
(それだけかい)
野槌は今でこそ妖怪枠に入れられているが、もともとは鹿屋野比売神といって草原に宿る国津神が本来の姿だ。
この野槌も祀られる社を失って零落した姿とされるが、回復術式が使えるし、毒攻撃もでき、頼りにしている。
俺のゲーム脳では、覚醒イベントとかで力を取り戻した暁には、美しい姫様に変身すると確信している。
(よろしくの……)
控えめにテレパシーで伝えてくる。丸っこい蛇だけど可愛い。
国津神にはこうした忘れられた神々が多いのだ。
「みんな、新しくシンとなった土蜘蛛族が長、土師殿だ。よろしく頼むよ」
各々に皆、それに応える。
そして俺は居並ぶシンを前に、今日の会合の内容を説明した。
「これから悪魔族の使徒と一対一の秘密の会談を行う。もしかしたら罠かも知れないし、他の神族が嗅ぎつけて邪魔をしてくるかも知れない」
「まさか悪魔族に与するのかえ?」
「天津神との絆を、如何にするつもりだい?」
セオ姫さまとハヤタマさまが詰め寄る。
「もちろん天津神との同盟は、変わらず最重要だ。しかし、国津神族が滅んでしまわないために、悪魔とも取引する可能性を残しておくんだ」
「吾ら国津がそうまで追い込まれておるとは……」
土蜘蛛は神族大戦に関してよく知らないのだろう。
このところ国津は攻防戦に負け続けている。このままだと本当にヤバいのは確かだ。
「吾が君もヤキが回ったのかえ? 悪魔族の使徒など信頼できぬわ」
「確かに悪魔族は信頼に足るとは思えない。でも、今日会うのは、現世でも俺の友人なんだ。彼女だけは信じられる」
「我は三位殿を信じよう」
「ありがとう、ハヤタマさま。セオ姫さまも信じてくれ」
「ふん、吾が君は悪女にたぶらかされておるのじゃ」
「ははは、その可能性も捨てられないね。だから俺に協力してほしい」
「最初からそのように頼めばよいのじゃ」
「助かるよセオ姫さま」
「貸しにしておくわ」




