1. 繁華街を抜け……
第5章 スタートです。
本作最高美少女★悪魔族ヒロインの登場です。
歌舞伎城は隠世に住む亜人たちの、巨大な居住区になっている。使徒相手の繁華街が広がり、各神族合意のもとに、東京最大の中立地帯となっていた。
掟と呼ばれる約定により、使徒間の戦闘、私闘も一切禁止だ。
超常の者も立ち入り禁止で、召喚も認められない。
今の支配者である仙族だけひいきにされることなく、どの神族の使徒も平等に扱われている。
その分商工業が発達し、仙族の利益になるということらしい。
これは支配者が何度変わろうと、ずっと行われていた慣習だ。
歌舞伎城は、本質は自由都市という伝統を持っているのだ。
では使徒同士はどこで戦うかというと、五つのタワーである。
タワーはダンジョンになっており、戦って五棟すべてのタワーを攻略すると、支配権を奪うことが出来る。
また、城内部には広大なダンジョンが広がっている。
商業施設や住宅は、歌舞伎城の表層にへばり付いているに過ぎないのだ。
エーテル体の一形態であるマナの膨大な横溢により、ダンジョンには多くの超常の者が湧く。
この超常の者を狩る使徒が集まり、その冒険の成果であるジェムが流通することで、この街の経済は潤っているのだ。
この狩りには、どの神族でも差別されることなく参加できる。
そのため、歌舞伎城は各神族使徒の交流の場にもなっているのだ。
「さて、ヤドゥル、お前は国津の常宿の常磐荘で待って……」
「お断りですん」
(グハッ! 即答かよ)
取り付く島もない感じだ。
「俺一人で会う約束なんだよ。いいかい、神族間の決め事なんだ。だから適当にはできない」
「大事な会議だからこそ、ヤドゥルも居た方が安全ですの」
「安全を確保するための作戦は考えてあるんだ」
「嫌な予感がするのですん。ヤドゥルは主さまのおそばを離れませんの」
ゆっくり説明して、納得してもらう時間はない。
ピョロリピョロリら……
不思議端末となった携帯のアラームが鳴る。見ると、現世時間が表示されている。
約束の時間だ。
やっちまった、遅刻確定だ。
「困ったなあ……おや? あ、那美さんだ!」
「え? お姫さま? どちらにですん?」
ヤドゥルの視線が雑踏の方を向いた瞬間、俺は反対側に猛ダッシュした。
「主さま? え? ええ? ええええええ~~? ヤドゥルをたばかったですの!? そんな……ひどいですん」
ヤドゥルをひとり残し、俺は繁華街を駆け抜ける。
長耳のウサギ人、鱗の色彩が美しいトカゲ人、見た目まんまエルフの妖精たち、石畳の街路にひしめく亜人たちは、何ごとかと驚き、みな道を空けてくれる。
隠世人は、人間――特に使徒を、命知らずの無頼の輩として警戒している。なので、気配を察して避けてくれるわけだ。
しかしヤドゥルはそうはいかないだろう。小さな身で人を避けながら、進まなくてはならない。
それに隠世で能力アップした俺の脚力には、追いつけるはずもない。
仙族の尾行がいたとしても、こちらが走ってしまえば、尾行はバレバレだ。
俺はときおり周囲を警戒しながら市街地を抜け、街はずれの荒廃した廃墟が広がるエリアまでやってきた。
人もまばらだから、尾行がないのがすぐに確かめられた。
ここまで来れば、まず安心だ。
立ち止まって息を整える。
「すまんな……許してくれ、ヤドゥル」




