15. 老師王
「蘭花よ、わしが長いこと仙族のまとめ役として、長老を務められている理由を知っておるかのぅ?」
「はい、いいい、そえは、い、いいえ、デス老師さま?」
「分からぬか? それはな、良い子にはたっぷりご褒美を、悪い子にはたっぷり罰を与える。これを愚直に繰り返し、皆に示し続けてきたからじゃ」
「老師さま……ずっとバスにデスか?」
老師、王義明ラフイラスト
StarFishで計画されたゲーム『東京黙示録』用に作成された
「蘭花よ、お前は本当にちいさくて可憐な花のようじゃのぅ。素直でとても良い子じゃ。わしは実の孫のように思うておる」
ランファは俺の腕にしがみついたまま、ブンブンと頭を振っている。
「じゃがな、知っておるか? 「泣いて馬謖を斬る」の故事を。ことさら目にかけ育ててきた馬謖をば、命令違反のうえ蜀軍に大損害を出した罪科で、斬首する諸葛亮孔明の想い、幾ばくかのものであったろうか。『三国志』にある有名な逸話じゃ」
「ろぉおお、ろうしさ……まぁ……ああ」
ランファはもう茫然自失の涙目だ。腰も引けて力が入らず、俺の腕にぶら下がって辛うじて立っている。
(やれやれ、ほっとけないか……)
「老師さま、お初にお目にかかります。国津神第三使徒相馬吾朗と申します。ご高名はかねがね存じ上げております。どうか以後お見知りおきを」
俺はランファをぶら下げたまま、丁寧にお辞儀した。
「おう、おう、国津の三位殿、うちのランファがよう世話になっておるようじゃのう。わしが仙族をまとめる老骨、王義明じゃ」
「ランファさんが老師さまに呼び出されたのは、きっとあまり良くないことでしょう。彼女は俺とデートすると言って、それを避けようとしていました。
しかし、これは彼女が気持ちを落ち着けようと、断られるのを分かっていて俺に寄ってきたんです。
猛アタックして俺に断られたら仕方ない、諦めて老師さまのお小言を聞こう、そういう覚悟を新たにするつもりだったんです。
ですから老師さまに逆らおうとか、軽んじようとかいう気持ちは、露ほどもなかったわけです。どうかご寛大なご処置を」
「ふむふむ、相馬殿、お若いのにどうしてどうして大したものじゃ。良く見て良く考えておることよ。
じゃが、これは身内のケジメの問題じゃ。蘭花の内心はどうであれ、外でわしを軽んじるような言動を取ることは、仙族と祖先を軽んじることであるからのう」
「聞いていた使徒は俺だけで、あとは皆隠世の者です。神族大戦にも影響はありません」
「ふむ、それはそれとして、わしも収まりがつかんのう……」
「というと?」
「何か貴殿の諫言を、容れるための餌が欲しいのじゃ」
「何も出せるものはありませんよ」
「金品を強請るような無頼ではないわな。そうじゃ、貴殿の今日の野暮用とやらを教えてくれぬか? わしも何やら聞いてみたくなった。さすれば、もともとの仕置もひっくるめて、蘭花の所業は一切不問としようかのう」
「それはダメですよ老師さま。それはこちら国津神族の問題。ランファの件はそちら仙族の問題。交わる理はありません」
「蘭花が仕置されても良いと?」
「ええ、すべては老師さまのお心のままに」
「ゴロウ~~~」
すがる腕に力が入る。
「ふぁっはっはっは! 肝も座っておるようじゃ。気に入ったぞ国津の」
「老師様にお褒めにいただき、誇りに思います」
「ンゴロウ?」
「さあ、蘭花、いつまでも引っ付いておらんと行くぞ!」
「老師さまぁ~」
「可愛い可愛い孫娘同然のお前を、煮て喰うわけがないじゃろう」
「じゃあ、焼いて喰うデスよ」
「お腹壊すから、喰わない方がいいですの」
「ワハハハ、そう不味いものでもないぞ」
「嫌あぁぁ!」
「さあ、さあ、来るのじゃ、来るのじゃ」
「あの……お仕置きは……」
「それはお前の心得次第じゃな」
「ひぎいぃぃぃ」
「その軽いお尻を、たっぷりペンペンしてもらうのですん」
半泣きのランファは、老師に引きずられるようにして、雑踏の中に消えていった。
その先には、深々と礼をする黒服の男たちの列ができていた。
「ほんとは、めちゃ怖いんじゃね?」
「はいですん………」
「それにしても……」
俺の考え過ぎ……か?
「いや……どうかな」
「怖くないですの?」
「いや、怖いね」
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