13. そしてバスは行く
「ひゃぁあ、なにさらすデス! 今書いたな、嘘つきゴロー泥棒の始祖!」
泥棒の始祖? ああ、嘘つきは泥棒の始まりってやつか。
「んごーめんなさいぃぃ老師さま!
迅く迅く、律令的迅くに消せ、ダメゴロー!」
「ランファ、落ち着け」
「この表裏者、オタンコナス!!」
泣きながら怒り、手を振り、足をバタバタさせ、ひどく混乱している。そうまで取り乱すものなのか?
「わかった、悪かったランファ、静かにしろ、また怒られるぞ」
俺はふっと息を吹きかけ、アストラルの呪印を消去する。
「消えたぞ、ほら、もうだいじょうぶだ」
「ううう……ヒドイデスの、ゴロー!」
「ごめんごめん」
「でも、どうして老師さまのご用と理解したデス?!」
「ランファのちょっとした態度や言葉の感じで、たぶん老師さま絡みだろうなと思ってカマかけたのさ」
それにしても、老師の文字を額に見ただけで、ああも取り乱すものだろうか。
何かやってはならぬことを、やらかしてしまったのか、俺?
イヤイヤイヤ、やらかしてしまったのは、定めしランファに違いない。
「ロクデナシのゴローデスよ。謝罪と賠償を倍返し要求するデスね」
涙を拭きふき迫るランファ。やっぱ凝りないやつだ。
「被害者ビジネスを排除するですん」
体で阻止しようとするヤドゥルだが、体格差は如何ともし難く、俺とランファの板挟みで逆に身動き取れなくなっている。
「離れるですの! この牛乳女!」
ドンッ!!
「ヒッ!」
魔術師の杖が再び床を突き、獣人の子が怯える。
「す、済みません……
お前たちも静かにしろ、うわっ!」
「「ひゃあ!」」
バスが急に揺れたため、俺はバランスを崩し、背中からひっくり返った。ヤドゥル、ランファが順に俺の上にのしかかる。
「もう、ゴローったら、ウチに押し倒されたかったのデスね! そうと言ってくれればぁん、最初から押し倒したデスよ!」
「……………!」
ヤドゥルはランファの巨乳に顔面を圧迫され、言葉も出せないようだ。
別に羨ましくはない。
「いいからランファ、どいてくれ」
「デートするならどくデスの! プキャ!!」
緑の魔法障壁で、ランファが吹き飛ばされた。
立ち上がったヤドゥルが、氷の視線で睨みつける。
「乳ビッチに死をですん!」
ドンッ!
「ヒッ!」
茶番劇を乗せて、バスは漆黒の闇に飲み込まれていく。




