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11. 蘭花

 歌舞伎城の漆黒の巨大な壁が迫ってくる。

 視界いっぱいに黒色が広がり、距離感が分からなくなる。


 見上げると、世界が切り取られたような暗黒の上に、無数のアストラル灯火(トーチ)広告灯(サイン)が妖しく輝いていた。


「はわ~、歌舞伎城はホント真っ黒でキラッキララで、チョーきれいデスねー」

「まあ、このカオス感が独特の美しさだな」

「ゴローは何するに、歌舞伎城へ行くデスか?」


 やっぱり来た、この質問。当然正直に答えるわけにはいかない。


 仙族にこの情報が少しでも漏れるのは、絶対的にアウトだ。

 かと言って下手な嘘を()くと、ヤドゥルのツッコミが面倒だ。やつは場の空気が読めない。


 テキトーにごまかすしかない。


「まあ、ちょっと野暮用でな」


 吾ながらテキトー過ぎる。


「野暮用って、まさか極秘的デートデスか!?」

「デ、デートのわけないだろう」


 くそ、こいつも勘の良い美少女か。


「野暮用はどこまで行っても野暮用さ」


「主さまには、お(ひい)さまがいらっしゃりますの。下衆の勘ぐりは止めるのですん」


「そんなこといって、ゴローはモテモテるんるんるーんデスから、女の子がほっとかないデスよ」


 おいおい、いつそんなモテ期が、本人も知らないうちに訪れたっていうんだ?

 どうせならもっと早くに教えてくれ。


「いくら盛りの付いた尻軽どもが押し寄せようと、主さまはぴくりとも揺るがないのですん」


 いや、そんな押し寄せられたら俺もそんな自信はないぞ、ヤドゥル。それに残念ながら俺と那美さんとは、そこまでの関係ではないしな。


 だがしかし、まあ~~、もうひと押しじゃないか、というのが俺の希望的観測ではある。

 彼女も俺のことは憎からず思っていてくれてるはずだ……たぶん……そうであって欲しい、ぜひとも。


「で、どうなんデスかゴロー? デート? 歌舞伎的デートなんデしょ?」

「デートじゃないよ」


「ひゃほーーい! それはよかったデスな。そんじゃ、ウチとデートするデスよ」

「なんでそうなる?」


 ランファは俺の腕にしがみつき、ふわっとマシュマロのようなものを押し付けてきた。

 このけしからんハニトラ娘め!

 しかし俺の鉄の意思は、そんなものでは挫けぬのだ……たぶんな。


「デート、デート、ゴローとデート!」

「尻だけじゃなく、頭まで軽いのですん。主さま、うるさいのでサクッと殺しときますの」 


「ランファ、デートはしない。ヤドゥルもすぐ殺すとかいうんじゃない」

「「えー!」」


 仙族の本拠地は池袋にあるが、歌舞伎城は最近の神族戦争で、悪魔族から勝ち取った大きな拠点だ。

 噂では、悪魔族の秘密基地が、未だに地下のどこかにあるという。

 争奪戦に破れても、密かに実効支配している隠れ家(アジト)というわけだ。


 何しろ歌舞伎城のダンジョンは広大だ。そんなものが幾つかあっても、おかしくはない。

 ランファが歌舞伎城にまで出向くのは、そうした秘密の拠点潰しとか、ただ招集されて会合とか、あるいは拠点の引っ越しの手伝いとか、まあ幾らでも理由があるだろう。


 だがしかし、一番可能性が高い理由は、他にあると思っている。

 それは、何らかの注意勧告のための、呼び出しを食らったというやつだ。


 そそっかしい上に無鉄砲で、それでいて人懐っこい性格だ。

 そのせいでとんでもないドジを踏んだのを、何度か見たことがある。


 以前、神族共通の強敵である凶悪な妄鬼(もうき)に立ち向かったことがあった。

 そのとき初めて神族合同作戦となったのだが、ランファも仙族代表のひとりとして参加した。


 作戦会議の後で悪魔族使徒の赤毛の少女と仲良くなりすぎて、仙族の上役から叱られていた。

 俺と知り合って、ベタベタしだしたのも、その時の出会いがきっかけなんだが。


 対妄鬼戦では、各神族で先陣を競って攻撃を仕掛けることになった。

 そこでランファは自分こそ初撃を喰らわせると、調子に乗って突出し過ぎたのだ。そこに妄鬼の術式が襲いかかった。


 助けてやろうにも、距離が離れすぎて間に合わなかった。

 真っ先に手酷い一撃を喰らったランファは、倒れたまま起き上がらなかった。


 瞬殺され、妄鬼の前に横たわる彼女を助けるために、他の仙族の手が取られてしまった。

 お陰で仙族チームは、良いとこ無しで戦いを終えた。彼女自身は、辛うじて瀕死状態で生還し、事なきを得たのだが。

 その後、仙族のリーダーである老師と呼ばれる大人(だーりぇん)に、相当絞られたらしい。


 さて、今日のランファのテンション高すぎ状態からして、逆に何か悩みを抱えているからじゃないかと、俺は見当をつけているのだ。

 一見アホに見えて、けっこうメンタル面倒くさい奴なんだ。


 だがしかし、理由はどうあれ、わざわざバスを利用するというのが実は解せない。


 使徒はバスをあまり使わないのだ。

 なぜなら現世で目的地に移動して、そこから隠世に入った方が安全で速いからだ。


 よって、このバスに偶然ランファが乗り合わせる確率は、かなり低いものとなる。


(まさか俺の行動が、仙族に監視されている? イヤイヤイヤ、そこまで俺は重要人物じゃないだろう)


 逆に、ランファ自身が尾行を避けるために、バスを使った可能性だってあり得るのか。

 あるいは、現世では深夜で移動手段がないから、バスを使ったと考えれば自然か……。


 憶測を並べても意味はない。

 直接聞いて反応を探ることにした。


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