3. タゲを取れ!
写真をヤドゥルに転送、スマホをポチッとビデオモ―ドに切り替えて、ストレージに入れたくもないチンピラどもと、その足元に倒れる傷ついたテルオさんを撮影開始した。
テルオさんもこっちを見上げた。
縮れた長い白髪、トレードマークの赤い帽子は脱げて、踏みつけられてペシャンコだ。テルオさん自身も口内を切ったのか、赤い血が出ている。
今も苦痛のうめき声をこぼすその口元には、なぜか微笑み。
そして弱々しく出されたピースサイン? なぜ?
珍獣好きのJKにケータイ向けられたときのオートモードなのか? 俺にガンバレってか?
まあ、そうかもだが、それより、自分はダイジョブだから、コイツラにせめてもの温情をってことかい?
優しみ溢れ過ぎなテルオさんなのだから、あり得なくもない。
そう、たぶん……きっとそれだ。
外道チンピラに優しみを!
でも指二本立てるのは、ヴィクトリーのVで、硫黄島で日本に勝ったときのマリーンどものサインだからなテルオさん。
血で血を洗う殺し合いの結果の平和なんだぜ。しかも日本軍全滅。
「ぬぁにしてんだデめぇゴラァコゾウ?」
上背のあるクズ一男が、肩を怒らせて一歩前に出る。
銀龍の見事な刺繍が際立つ黒シャツの男だ。
「やんのんか? あぁん? くぉんのクソヤロウがぁよぉ!」
もうひとり、ちょっと関西イントネーション。恰幅のいいクズ二男がその後ろで凄む。
派手なアロハシャツに金のネックレスに、腕にはローレックスとか?
いかにもって感じだ。
にしても、こいつらのセリフときたら……
「テンプレ過ぎ……」
「んだとぉ?」
まだかかっては来ない。
まずはこちらの戦力を値踏みしているのだろう。
ダイジョブだ安心しろ、俺とっても弱いから。
なので、弱者がやることといえば、とりあえず公権力を笠に着てみたりする。
「傷害罪の証拠撮ったんだけどさぁ……今から警察呼んでこよっかな~」
「っだとっこんクソヤロ、ナメトンがわリャア」
クズ二男が寝てるような細い目をくわっと開く。
そんでもまだ細い。そんで超怖い。
「っざッけんじゃねーぞゴルァ!」
クズ一男がゆらりと前に出てくる。俺も合わせて後ろにゆらり。
よしよし、いい感じで注目を取れた。
それにしても、さっきから……アレだ。
「語彙がプアすぎてマジウケる」
「んだと!?」
さあ、ここで、全力で逃げる!!
俺はくるりと踵を返して走り出した。
「あ、待てこのガキ!」
定番過ぎるが、待てと言われて待つ者はいない。
本当に何もかもコミックじみて滑稽にも思えるが、現実もそんなもんかと苦笑。
とはいえ、捕まればゲームオーバー確定。
俺は歌舞伎町を駆け抜ける一迅の風となる――ならねばならぬ。