10. 乗り合いバスの客
パッと見、華やかである。
髪の毛は団子に結って、左右にまとめている。
お目々ぱっちり、口角がきゅっと上がった、見た目は可愛い系美少女だ。
カラフルな黄緑色系プロテクターで固めているものの、隙間からのぞく肌は露出多めだ。
前掛けの付いたミニスカに細い腰、その上にへそ出しは卑怯でさえある。
「モキャーーー! ゴロー!! ゴロー!! ウキャモーーー!! ゴロロロウーーーー!!」
「ランファ? なんでお前が……」
「ココで会ったが百年目的千載一遇のチャンス降臨! ラブラブずっきゅん遭遇デスね!」
そいつは俺を視認するなり座席から跳び上がり、意味不明の言語を吐き散らかしながら、俺に向かってぴょんぴょん飛び跳ねて迫ってきた。
彼女は仙族の使徒劉蘭花。
仙族とは中華系の神族として一括りにされているが、派閥みたいなのがいくつもあって、内側では互いに激しく鎬ぎを削っているらしい。
彼女がどこの派閥に属しているのかまでは知らない。
劉蘭花ラフイラスト、StarFishで計画されたゲーム
『東京黙示録』用に描かれた。
本作はこの『東京黙示録』のシナリオをベースに、
大幅に加筆修正したもの。
「ウチとゴローの小指は、鮮血ワイヤで固結びガッチガチのお陰さまで、マシマシゼンブ盛りデス!」
「寄るでないですん、下郎!」
「ギャフッ!」
ランファは突然現れた八角形の術式障壁にぶつかり、潰れたカエルのような悲鳴を上げた。
障壁はヤドゥルの放ったもので、魔法にも物理にも作用する便利なやつだ。
「なにするデスか~? この格下デク人形風情がデス~!」
鼻を赤くしたランファが怒り出すが、まだ口調は柔らかい。
「ヤドゥルは木偶ではなく超有能ですん。ゆえに尻軽女のハレンチ行動を徹底阻止するですの」
「んーだと、誰がビッチじゃ、このペドマペットめが! ウチは絶対純情可憐的ヴァージンじゃボケ!」
キレた。沸点低。
「その穢らわしいガチョウ唇を、縫合してやるですん」
「やれるもんならやってみやがれ、このどくされチビめが!」
「はい! ふたりともそこまで!」
俺がパンパンと手を叩いて間に割り込んだところで、衝撃が深く腹をえぐった。
ランファの掌から放たれた、波動ナンチャラみたいな念動波が腹にヒットして、オレンジ色の派手なエフェクトが炸裂!
と同時にそれを防ごうとしたヤドゥルのシールドが、俺の背を押した。
生身の俺の腹部は逃げ場なし状態で攻められ、一瞬意識が飛ぶ。
「主さま!」
「ゴロー!!」
崩れ落ちそうになるのを、前後からひっしと抱えられる。
「キャハハハ!」
獣人の子がそれを見て爆笑している。
バスは何事も無かったかのように発車していた。




