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8. 風の精霊たち

 常闇の帳が降りた荒野には、街灯に照らされた一筋の舗装道路がある。


 その途上にポツンとバス停の看板が立っている。

 それを目指し、俺を先頭に、ヤドゥル、瀬織津姫、土蜘蛛と続く。


 野良の超常の者は、遠くから土蜘蛛の威容を見て近づいてこない。

 これは楽でよいと思っていたら、不意に精霊の群れが押し寄せてきた。


 緑の燐光を放つ風の精霊たちだ。

 さまざまな翼をもつ人型で、半透明の裸身を晒している。精霊虫よりは大きく、その大きさもまちまちだが、人間より大きなものはいない。


 何百という朧に発光しながら浮遊する精霊の群れに、たちまち俺たちは取り囲まれた。

 その幽玄な光の乱舞の美しさに、思わず息を呑んだ。


 よく見ると同じように見える精霊たちにも、顔の特徴がある。獣のように鼻つら(マズル)の突き出た者、逆に凹凸なくのっぺりとして無表情な者、妖精のように美しい顔立ちの者。


 それら自ら淡く光る者たちが、大きな群影となって、ひとつの生き物のようにうねり、海の波のように寄せては返し形を変えていく。


 彼らが大きく動くたびに、無数のアストラル・ドットが煌めきながら吹き上がり、そして儚く消えていく。その光の色は、伝播するようにして水色から緑、黄色へと変色する。


 しかし、見とれてばかりではいられない。もし戦いになったらこの数だ、ただでは済むまい。精霊の意図を知らなくては……恐らくは珍しモノ好きの好奇心……であって欲しい。


「精霊ども、邪魔するでないのですん!」

「ヤドゥル、精霊を怒らせるな」


「されど主さまぁ……」

「だめだ、じっとしてるんだ」


 小さな精霊たちが、ヤドゥルの顔や髪の毛を、なにか確かめるようにペシペシと触っている。


「ひい!」

「このっ、気色の悪いことよ」

「みんなも精霊の好きにさせてやってくれ」

「あな面白し、小さき者共よ」


 風の精霊たちは、俺たちの体を触ったり瞳を覗き込んだりして、その存在を確かめているようだった。その情報を伝えるかのように、彼らの発光とアストラル・ドットが波のように伝わっていく。


 ひとしきり戯れると満足したのか、笑いさんざめきながら、来たときと同様不意に囲みを解き、風に流されるように去っていった。


「ひゅふう~……やれやれですの」

「小物どもが群れおって、何をしたかったのじゃ?」

「さすがの水の姫君も、肝が冷えもうしたか?」


「別に冷えておらぬわ。気味が悪いではないかえ? 何を思うておるか分らぬゆえ」

「なに、他意はござらぬ。あれはおかしみだけで動いておる。知ることに(かつ)えた童と同じよ」

「俺たちが物珍しいから、情報を集めてたってことだな」


「吾が君、なぜ動くなと仰せじゃ?」

「下手に刺激して戦闘になったら面倒だろ? もちろん負けることはないし、全滅させることだってできるだろうけど、こっちも酷い目に遭うよ。害意は感じられなかったから、好きにさせるのがいいのさ」


「精霊など、吾が君が意のままに操れば良いじゃろうに」

「ははは、俺は精霊使いじゃないよ」

「精進が足りぬわ」


 セオ姫さまは、精霊たちに触られまくったのがお気に召さないようだ。

 気位(きぐらい)の高い女神さまなのだから、そう思うのも当然なのかも知れない。ちょっと我慢してもらったが、こればっかりはしょうがないだろう。


「でも、風の精霊たちは、どこか幽玄な美しさを持っていたな。そう思わないかい? セオ姫さま」

「妾とて無粋ではないわ。そのくらいの趣は解するのじゃ」


「みんなであいつらに囲まれて、俺はちょっと楽しかったよ」

「宿得は楽しくなかったのですん」


「ヤドゥルは怖がりだな」

「怖くないですの! 不気味で邪魔なだけですん!」


 ヤドゥルにはこうした未知なるモノに対するワクワク感はないのかも知れない。彼女は常に現実的な危険度や、不安定度を察知するのが優先なのだ。


「そうだな、ヤドゥル。たしかに不気味で危険だったかも知れないね」

「別に、怖かったんじゃないですの!」


 うむ、ちょっとだけ怖かったらしい。


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